おつかい!
結局、イーブイは最後までよくわかっていないままな気がしたが、ゾロアと一緒に出かけられることはわかったらしく、喜んで部屋の扉まで走っていく。
後ろでメイが「もうイーブイ〜!」と声を上げるも当のイーブイは、はやくはやく!とせっかちに尻尾を振ってゾロアを急かす。
仕方ないなーと間延びして言いながら、メイはゾロアの頭を撫でた。


「ゾロアと一緒におつかいできるの、よっぽどハッピーみたいねー。
ゾロア、イーブイのこともおつかいのことも、お仕置きのこともよろしくね。いってらっしゃい!」

「ロア……。」

「フ、フタチ……フタ、チィ……。」


いや、そもそもこのおつかいがお仕置きなのだから、よろしくも何もないだろう。
しかし、せいでんきにまみれたフタチマルのか細いツッコミの鳴き声は届かず、依然としてデンリュウに背中をさすられたままだった。


「ロア……。」

「エア!ムドーーッ!」

「……ゾロっ。」


うつむいて黙ってしまったゾロアの頭にエアームドの翼が当てられる。
ほら、いってきなさい!とでもいうように甲高いしゃがれ声を上げながら翼でゾロアのおしりを叩き、しゃんとするよう促した。
一瞬跳び上がったゾロアは、ちらりとエアームドと、それからメイを見上げて――――イーブイを追いかけて、扉まで走っていく。

ジャンプしてノブを器用に回したイーブイが扉を開けて、ゾロアと共に尻尾を振って部屋を飛び出していく。


メイたちは、2匹がちゃんと無事に帰ってくることを信じて待つことにするのだった――。





――――なんてことはなく、ちっちゃいものコンビのおつかいを陰ながら同行するのだった。



「……ローア……。」

「ブイブイ?」


尻尾を振って歩くイーブイの斜め後ろでゾロアが、こっそりため息を吐き出した。
なんでこんなことに、と言いたげな様子に気付かず、どうしたゾロア?とイーブイはニコニコ笑顔のままゾロアの隣に並ぶ。
イーブイが振る尻尾がバシバシとゾロアの尻尾に当たっており、ゾロアはもう一度ロア、とため息交じりの鳴き声を漏らす。


その様子を後ろから物陰に隠れながら追いかけるメイたち。
リュー?とデンリュウがイーブイたちが歩いている道の先を手で指して、首を傾ぐ。
ここからどうやってお店まで行くのかを尋ねられたメイは、ちょうどそのことを調べていたらしい、タウンマップを見せた。


「えっとねー、ソウリュウシティまでは……。」


カゴメタウン→12番道路→ビレッジブリッジ→11番道路→ソウリュウシティ。
ルートとしては、タウンマップで見る限り、こんな感じだ。
基本的に一本道であり、特に危険な道路やポイントもなく、道中で草むらにやたら入りたがったりなどしなければ、野生のポケモンに遭遇することもそうないだろう。
イーブイのことだから、きっとそういった道を行きたがって、襲い掛かってきた野生ポケモンとのバトルに興じて、挙句に首にかけているポーチを落としてしまいかねないのだが、そこはゾロアがしっかり止めてくれると信じよう。


「うん、だいじょうぶ!」


言い切るメイにデンリュウはおっとりと、エアームドは大袈裟に笑って頷いた。
ポケモンセンターから出る際にジョーイさんにマヒを治してもらったフタチマルも、出掛けた以上は2匹を信じるしかないとわかっているらしく、声には出さずに頷いており、一行は尾行を再開するのだった。



12番道路は緑が多く、山地というには規模が小さく、なだらかな起伏に富んだ丘陵地帯である。
道路の中央にやや目立った丘があり、登り口の南側に草むら、北側に濃い色の草むらがあり、むしタイプのポケモンも多く生息していた。

花の傍で踊るバタフリー。ミツを運ぶミツハニー。
木陰では身を寄せ合ったクルミルたちがハハコモリに作ってもらった葉っぱの服を着て、スヤスヤと眠っている。

喧騒とは程遠い、のどかな道路を悠々と歩くイーブイの隣で、ゾロアは吸い込んだ空気の澄んだ味にひとしれず尻尾を振った。
太陽が真上に上りきっていない時間帯。
強すぎない日差しや吹き抜ける風の涼しさが心地良い。
それに隣にいるイーブイに対しては他と比べて幾分か気兼ねなく、閉じ込めがちにな心情がひっそりと解放される気になれた。
実際は、破天荒なイーブイに対して閉じ籠る暇や気取る気力がないという方が正しいのだが、それでもゾロアにはその明るさに居心地の良さを覚えていた。
それまで留まっていた穏やかな木漏れ日から飛び出したことが……眩しい日差しの下の でこぼこ道を一生懸命駆け回るような、そんな忙しない明るさが――いい、と思えるのはどうしてだろう。
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