おつかい!
「イーブイ、つまみ食いしちゃいけません。」


朝食後、改めてイーブイのお説教をするメイ。
正座するメイの前でイーブイが特に何もわかっていない顔でメイを不思議そうに見上げている。

たくさん食べるデンリュウもたまにつまみ食いをすることがあるけれど、料理の際の味見係に任命してからは、つまみ食いをすることがなくなった。
だが、イーブイはトマト限定でつまみ食いをすることが多々ある。
そして、デンリュウと違い、味見係にしても治らなくて最近困っていたのだ。


「こうなったらもう、お仕置きです。」

「ブイ?」


堪忍袋の緒が切れたことを暗に示すメイだが、厳格な雰囲気をいくら出そうとしても元来の性格のせいで無駄に終わっていた。
そのことには気付かず、びしりと立てた人差し指をイーブイに突きつける。


「バツとして、トマトを買ってきてもらいます!
イーブイが食べちゃった分と、あと……。」


他に何かないかなと視線を彷徨わせると、ちょうどエアームドが目に入り、そうだと思いつく。


「ポフレも買ってきてほしいの。」


パアっとエアームドの目に流星が過る。
ベルから聞いた話だが、ヒウンシティと同じく近代的な街であるソウリュウシティは「とにかく新しいものが好き」と、よその地方の流行りものにも敏感であり、最近では専門のスイーツの店も出来たそうだ。

トマトだけならカゴメタウンでも買えるが、ポフレも買うとなったらどちらもソウリュウシティへ行って購入することに決めたメイの服の裾をフタチマルがクイクイと引く。
フタフタチ、と目元に渋みを帯びたフタチマルがポケモンだけでは買い物はできないだろうと至極まっとうなツッコミを訴える。
さすがに間が抜けているメイがその当たり前なことに気付かないなどといったことは――ないと信じたい。
フタチマルがじいっとメイの目を見つめれば、メイはへらりと笑みを浮かべて、心配しないでとパートナーの頭を撫でた。
さすがのメイでもこの程度の常識は持ち合わせていたか、とフタチマルが安堵しかけるが、否、そもそも そんなことを心配するようではトレーナーでありパートナーでもあるメイに対して失礼だったかもしれない。
これはむしろ自分が反省をすべきだとフタチマルは思い直し、頷き返す。


「フタチマル、だいじょーぶ!ゾロアがいるから!」

「ゾロ?」


名付けて、人間にイリュージョンしたゾロアならお買い物ができる作戦だ。

フタチマルが水底に沈むが如く一瞬前の自分の考えを恥じて、深く深く丸めた背中をデンリュウがよしよしと撫でる。
特性のせいでんきが発動して、微弱な青い電気がフタチマルの体中を跳ね回り、彼をマヒという状態異常に追い込むが、そのことにデンリュウは気付いていない。
ついでにメイも視線はイーブイとゾロアに固定されているため、いろんな意味でかわいそうなことになっているパートナーの姿に気付かぬまま、話を進めていた。


「というわけで、イーブイとゾロアにおつかいに行ってもらいます!」


曰く、イーブイがトマトをつまみ食いしているところを現行犯で見ていたにも関わらず止めてもくれず、メイやフタチマルに知らせてもくれなかったバツだそうだ。
あと、イーブイだけでおつかいに行かせるのは心配だから、イーブイと一番仲が良くて、しっかり者なゾロアが一緒だと安心だそうだ。
どちらかというと、前者は建前で後者が本音である。


「はい、これはお金ねー。あと、メモも入れとくね。」

「イブィ?」

「ロア……。」


さっそく用意したお金をミニポーチの中へ入れ、イーブイとゾロアの首にそれぞれ掛ける。

イーブイの方はトマト代と、購入する数量が書かれたメモが入った、モンメンの刺繍が施されたポーチを。
ゾロアの方はポフレ代と、同じく購入する最低限の数量が書かれたメモが入った、チュリネのイラスト入りのポーチを。
どちらも一応、念のために少し余分にお金を入れておいたため、万一お金が足りなくなったり落としたり等したときに備えたつもりだ。
ポフレの方は、最低限の購入数量が書かれたメモを渡したが、金額的には多少のおつりがくるくらい入れておいた。
余ったお金も足せばもう少し多めに買えるかもしれない。
イーブイと甘いモノ好きなゾロアのことだから、たくさん書いたがりそうだったからだ。
お店を見つけたら店員さんに中に入ってるメモを見せてねとメイが二匹に言いつけると、イーブイはブーイっ!と元気よく、ゾロアは声は出さずに頷くだけの返事をした。
prev * 2/12 * next
- ナノ -