Twilight Mystery
「おーい、アマネ!なにしてんだ、こんなところで。」

「……?」


声を掛けると、ツーテンポほどしてアマネは振り返った。

きょろきょろと辺りを見回してから、ようやくミスミの姿を青い目に捉え、声を上げたのが彼であることを認知する。
が、少しの間ミスミを見つめた後、彼女は黙ったまま不思議そうに首を傾げた。

まるで、今呼ばれたのは私?といわんばかりの表情はひどく物静かな雰囲気を湛え、いつもの爽やかでハツラツとした様子が見受けられないことにミスミの目もきょとりと丸みを帯びる。

ボリューミーなクセっ毛を高い位置でポニーテールに結い上げ、白とピンクのボウシを被った姿。
ボーイッシュともとれる活発な格好もハッキリした顔立ちも青い目も、記憶の中にあるアマネその人だ。


それなのに、何かが決定的に「違う」気がして、アマネの元へと歩いていく途中でミスミは思わず口を開く。


「どうしたんだ、アマネ?なんかいつもと違わないか……?それに修行はどうしたんだ、帰ってきてたのか?」

「……トウヤくんこそ、カントーに帰ったんじゃなかったの?」

「は?」

「……?」


噛み合わない会話。聞き慣れない名前。
けれど、目の前には見知った人物。
彼女の前で立ち止まったミスミは、ちぐはぐな状況に再び困惑に陥るよりも、怪訝な思いを抱いて「違和感」を「確信」へとゆっくり変化させていく。


「アマネじゃない……のか?」

「…………。」


こくん。声には出さず頷くだけの彼女は、たった今ミスミの中で"アマネそっくりの女の子"へと印象の変化を遂げた。
そして、今度は彼女の方からミスミに問いかける番だ。
先程呼んだ名前の人物――トウヤくんであるか否かをミスミに疑問符をつけて尋ねてくる。


「アナタもトウヤくんではないの……?」

「オレはミスミだ。」

「ジャロ。」

「ああ、それでこっちはタージャ。」


トウヤって誰だ。
シンプルな疑問を頭の片隅に浮かべつつ、彼女の問いかけに対して否定と訂正の意味を込めて自分と、それから横から短い葉っぱの手でミスミの二の腕を叩いてきたタージャの名前を口にするミスミ。

タージャに存在主張をされて、ミスミも今度はアマネそっくりの彼女から、彼女の両隣に立っている二匹のポケモンたちへと目を向けた。
コジョンドとジャローダ。
ジャローダはともかく、コジョンドはアマネも連れているポケモンであり、このツーショットだけを切り取ってみれば、やっぱりどこからどう見ても自分の知っているアマネにしか見えないのだが。

けれど、目の前の彼女がアマネとは別人だとわかった今、少しずつ違いが浮き彫りになっていくようだった。

アマネとはハッキリ性格が違うことが伺える、目の前の大人しい少女。
顔のパーツがアマネと同じはずなのに、目の前の彼女が浮かべる落ち着いた表情が顔立ちの違いを錯覚させる。

――――ひとまずは目の前の女の子が誰なのかを知るのが先決だ。

先に名乗ったミスミが今度はそっちの名前を教えてくれと視線で訴えれば、なぜかタージャを興味深そうに見つめていた彼女はすぐには気付かず、彼女のジャローダにローダと呼び掛けられてハッとしていた。
ポケモンが頼りになるのは、お互い様らしい。


「私はトウカ。
このコは、パートナーのミルフィーユ。こっちは、ムース。……よろしく。」

「ローダ。」

「コジョ。」


必要最低限だけを淡々とした口調で説明する彼女――トウカは、よろしくの言葉の終わりにミスミをまっすぐ目で捉えた。
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