Twilight Mystery
青々とした空の下に広がる街並みは、真昼だというにも関わらず煌びやかなライトアップに包まれている。
でんきタイプポケモンの充電エネルギーを利用している電力によって どこもかしこもを惜しげもなく照らし出せば、街は華やかな雰囲気に満ち、人もポケモンもキラキラと輝いて見えた。
この街特有の楽しげな喧騒には、思わずつられてしまいそうになる。
雷光にも負けない、煌めく街――――ミスミとタージャは今、ライモンシティのゲート前に立っていた。
どうなってるんだ?さっきまでサンヨウシティの夢の跡地にいたはずなのに……。
わざわざ声には出さずともミスミとタージャの言いたいことは一致している。
何が起こったのか掴みきれずに呆然とした面持ちで、とりあえずとばかりに街の中へと足を踏み入れた。
記憶と違わない街並みや賑やかな雑踏。
耳を澄まさずとも聞こえてくる絶叫マシンの滑車音と楽しみに満ちた悲鳴。
どれもこれもが鮮明にミスミの鼓膜を打ち、視界の中に息衝いている。
「あのムシャーナが見せてる幻なのか……?」
否、どう考えてもそうとしか考えられない。
これはきっと、あの色違いのムシャーナが出していた紺碧色の夢のけむりによって、現実を"夢"に変えられているのだ。
そういえば、あのムシャーナがどこにもいない。
それさえも夢の一部なのだろうか。
物は試しに隣にいるタージャの頬をつねってみようとしたミスミは見事に返り討ちに合い、強かなデコピンをもらうこととなった。
ツルで弾かれ、赤く色付く額を抑えながらミスミはため息交じりに この痛みのリアリティを口にする。
痛みを与えればショックで夢から覚めようものだが、上手くいかなかったらしい。
それとも、これは現実なのか……?
頭の中に飛び交うクエスチョンマークにそろそろ煮えを切らせたくて、ミスミが苛立ちを声に乗せようとしたところで、またしてもタージャがツルでミスミを叩いてきた。
「ロダッ。」
ベシッと後頭部にもたらされた軽い衝撃。
ツタージャの頃から変わらない仕草は、ミスミへの叱咤やツッコミ、愛情を示すタージャなりのコミュニケーションだ。
訳の分からない状況に困惑してそれどころではなかったミスミは、呼びかけとして使用されたそれに意表を突かれて驚きの声を上げる。
「いてっ!なんだよタージャ?」
振り向けば、これもまたツタージャの頃から変わりない気の強さが瞳にありありと浮かんだクールフェイス。
訳の分からない状況に置かれているのはタージャだって同じなはずなのに、いつもと変わりない澄まし顔と態度なのはなぜだ。
所謂、自分よりも慌てている者の様子を見たら自然と落ち着けるといった心境だろうか。
トレーナーよりもパートナーのポケモンの方がしっかりしているのは頼もしいと思う反面、ちょっとだけ悔しい気になる。
「ロダ。」
短い鳴き声で軽く顎を彼方へ振られ、その視線が示す先へとミスミも首を動かして見た。
あっちは、バトルサブウェイがある方向だ。
タージャが何を示しているかよりもつい先に、記憶している街並みの特徴の一つを自然と目に入れてしまう。
そこで、ミスミは見知った姿を見つけた。
コジョンドとジャローダを連れた、少女の姿を。
「あれ?あれってアマネか?」
「ジャ。」
この街出身であり、バトルサブウェイで何度もタッグを組んでバトルをした少女。
どうやらタージャが言っていたのも、彼女のことだったようだ。
頷くタージャと共にミスミはアマネと呼んだ少女の元へと歩いていく。
けれど、頭の中でまたしても疑問符が首をもたげる。
確か、最後に彼女と別れた際、しばらくの間は修行に行くと言っていた気がするのだが……。
何か用事があって一時的に帰って来たのだろうか?
いや、そもそもここは夢の中かもしれないのだから、アマネがいてもおかしくはないのか……?
様々な違和感はあれど、ミスミは顔見知りに違いない少女へと片手を上げて、名前を呼んだ。