Twilight Mystery
ポケモンリーグへ挑戦し、チャンピオンであるアデクを下して見事 殿堂入りを果たしたことと次への目標を定めたことは、同時期だった。
人とポケモンの共存――それがトウカの夢だ。
その夢と、そしてもう一つ……とても大切な思いを叶えたいがために彼女は新たな旅立ちを決意した。

イッシュではなく、別の地方へと飛び、自分の夢を追いかける。

だが、その前にもう一度だけ――旅の中で知り合った人たちへの挨拶回りも含めてイッシュ地方を巡っていた彼女がライモンシティに立ち寄った際、ふと思いついたことがあった。
そういえば、この街のバトルサブウェイという施設にだけはあまり立ち寄ったことがなかったな、と。
バトルの腕に自信のある者や実際に四天王にも匹敵する腕を持つ上級者が集い、己のレベルに見合ったトレインに乗り込み、終点を目指す場所。

トウカの手持ちの中で特別血の気が多く、向上心に長けているコジョンドのムースが血が騒ぐとばかりのやる気をカーバンクルの瞳に漲らせていたものだから、トウカも乗車を楽しみに立ち寄ったのに。
どうやら、こんなときに限って何かトラブルでも発生したらしく、『運行中止』の看板が入り口に建てられていた。
復旧を待とうにもいつまで掛かるのかもわからないらしい。
あまり長居も出来ないため、乗車はイッシュへ帰ってきてからねとムースに語り掛ければ、彼女は苦々しげな表情にあからさまな落胆の色を滲ませてうつむいた。

ジャローダのミルフィーユに頬を寄せられても、ふいと顔をつい反らしてしまうところに彼女の子供らしさを見つけて、トウカが思わず目元を綻ばせる――――そのときだった。


「おーい、アマネ!なにしてんだ、こんなところで。」


その言葉が自分に向けられているものとは気付けるわけもなく、ただ声がした方へ何気なく振り返ってみると、カントー地方へ帰ったはずのトウヤがジャローダを連れて立っていたのだから、驚いた。





――――結局のところ、顔がそっくりな相手を自分の知り合いと間違えてしまったというのが真実で。

お互いに名前を名乗り合い、初対面であることを確認し合ったところで、一度会話は途切れた。
というよりも、終わった。
しかし、そうですかそれじゃあサヨナラという流れにもならない微妙な間が二人の間を風と共に突き抜ける。

正直、お互いに顔のそっくりな知り合いを持っている者同士、けれど、その知り合いと性格は全然違うようである相手と もっと話がしてみたかった。
この奇妙な沈黙もそれゆえだ。
知り合いに似ているせいなのだろう、ベタな口説き文句ではないが、はじめて会ったとは思えない親近感……否、既視感、あるいはもっと別の何かに心が惹かれてやまない。


「あのさ、トウカ。もしよかったらもう少し話さないか?ここじゃなんだから、別の場所に移って……。」


って、これじゃまるっきりベタなナンパみたいじゃねえか。

少しと言いつつ長くなりそうな話を運行中止中とはいえサブウェイ前で立ったまま行うのは、マナーに反するだろう。
そう思い、先に口を開いてトウカに誘いをかけたのはミスミの方だった。

何気なく切った口火は、そのつもりが一切ないにも関わらず、聞こえようによってはそういう意味に取られてもおかしくないものだったため、ミスミは自分で自分の発言に目元を引くつかせた。
隣でタージャが呆れたような眼差しを注いでくる。
うるせえ、今のは自分でもちょっとないなと思ったよ。

しかし、トウカは別段気にした様子はなく、どころかすぐに頷きが返ってきた。
傍にいるミルフィーユやムースもミスミの提案に乗り気なのか、否定的な雰囲気は見受けられない。
顔が似ているせいなのか、どうやら少しもミスミを疑ってはいないようだ。
かくいうミスミの方もアマネそっくりのトウカに対してどうこうというマイナスな感情は今のところないのだが。

だって、彼らはお互いのことを何も知らなかったから。

そうと決まれば、肝心の場所をどこにするかを考えるミスミがトウカに意見を求めようとしたところで、絶叫マシンが豪快に走り抜ける音と悲鳴が響き渡る。
お互いに出会ってから一切の物音が遮断され――まるで時が止まったような感覚に陥っていた二人が、ここで漸く平常心を取り戻した証拠だった。

二人とそのポケモンたちは揃って同じ場所を目に映し、それから互いの顔をもう一度見合わせると、どちらともなく遊園地に行こうという意見を一致させたのだった。
prev * 4/17 * next
- ナノ -