節くれ立った指が髪を撫でていく。そっと梳いたり、指に絡めたり。髪に神経なんか通ってないはずなのに、なんだかくすぐったくて、心地よかった。

「髪、伸びたな」

緩く波打つ髪を掬い、紡がぽつりと呟く。
ちさきはちょっと苦笑を浮かべた。

「最近、切りにいく時間がなくて。実習もあるから、いい加減切らないと邪魔になっちゃうんだけど」

半ばぼやきながら、いちいち纏めるのが面倒だからと綺麗な長い髪をばっさりと切った学友を思い出す。
そのことを話すと、紡も彼女の思い切りのよさに感心したような反応を示した。

「確かにショートの方がなにかと楽そうなんだよね。私もばっさり切ってみようかな」

「切るのか?」

確認するような問いは、どこか不服そうだった。
思わぬ反応にちさきは目を瞬かせる。

「似合わない?」

「似合わないことはないだろうけど」

紡にしては珍しく煮え切らない返答だった。だから、なにを考えているか読めなくて、それを伝えるように、紡、と名前を呼ぶ。すると、節くれ立った指がそっと髪に触れた。

「こんなふうに触れられなくなるのは、もったいないな」

優しく梳いたり、指に絡めたり。先程よりも幾分丁寧な手つきは惜しむようで、髪に神経なんか通ってないはずなのに、気持ちが伝染してきそうだった。
確かに、こんなふうに触れられなくなるのはもったいないかもしれない。

「じゃあ、短くするのはやめる」

どうしてもショートにしたかったわけではないこともあって、あっさりと前言撤回して紡の肩に頭を預ける。
ふっと笑う気配がしたかと思うと、大きくてあたたかな手で愛おしむように撫でられた。
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