不本意なおせっかい
コインランドリーにNの服を突っ込み、ボタンを押す。ガタガタを音を立ててドラムが回り始めたのを確認して、オレはタージャとリクに向き直った。

「そろそろいい時間だし、ついでに夕飯買ってくか?」

ライブキャスターに表示されたデジタル時計は、17時37分を示している。少し早い気もするが、どうせ買うんだから今ついでに買った方が楽だろう。
2匹も同じ考えらしく、短く鳴いて頷いた。

「じゃあ、タージャは洗濯物を見張っておいてくれ。リクはオレと買い物な」

「ジャ」

タージャは首肯して、ランドリー前の椅子に飛び乗った。
よろしくな、とタージャに手を振り、オレとリクはホテルを出る。
細い通りから大通りへ向えば、仕事帰りであろうサラリーマンやOLが大勢、バッファローの群れのように目の前を通り過ぎていった。
ヒウンに来て数日、この人の多さにもそろそろ慣れてきたが、それでも背の高いビルの大群同様、田舎者には圧巻だ。

人見知りのリクを怖がらせないように、それからはぐれないように抱き上げて人波に突入する。
人の流れに逆らって向かうのは、今朝ベルから教えてもらったワゴン販売のベーカリーだ。開店したばかりでメディアにはまだ取り上げられていないが、最近口コミで評判になっているらしい。昨日からヒウンシティの広場に停まっていて、食べなければ絶対に損をするとベルが熱弁を振るっていた。

実物を見ればその通りのようで、空前のブームを巻き起こしたヒウンアイスには遠く及ばないにしろ、それなりの人数が焼き立ての香ばしい匂いを漂わせるワゴンの前に並んでいた。その列にオレたちも加わる。
体感で10分ほどすると、オレたちの番がきた。
手元に置かれたメニュー表をリクと覗き込む。

「なにがいいと思う?」

「きゅう」

リクは少し悩んで、サンドウィッチを5つ前足で指した。
リクのことだから、他の手持ちの好みも考えての選択だろう。こういった観察眼はやっぱりリクが一番優れている。だから、今回もリクについてきてもらったんだし。
リクが選んだものとオレが食べてみたいと思ったものを買って、ホテルのコインランドリーに戻る。
ちょうどいい時間だったようで、椅子の上でタージャが適当にNの服を畳んでいた。

「タージャ、ご苦労さん」

「ジャ」

憮然とした顔で、タージャは雑に畳まれたNの服をオレに差し出した。
手持ちの中ではタージャとリクだけがNに警戒心を持っている。だからきっと、どうして自分がこんなことをしなきゃいけないんだ、とでも思っているんだろう。オレだってそう思う。

「それじゃ、部屋に戻るとするか」
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