鐘の音
タワーオブヘブンの鐘の音が聞こえた。
清水のように澄んでいて、どこか淋しい音だった。
あの鐘の音は、鳴らした者の心が反映されるという。
きっと、鐘を鳴らしたのはNだ。
根拠もなしにそう思う。間違ってはいないだろう。
ネジ山へ行くはずだったが、踵を返してタワーオブヘブンへと向かう。


******


塔の中は相変わらず静かで、淋しくて、清らかだった。
バトルを申し込んでくるトレーナーを無視して螺旋階段を昇る。
ふと、先日フキヨセジムの前で出会ったNを思い出した。
いつものように難しい話を捲くし立て、ジャローダのタージャから俺の個人情報を勝手に聞き出して、それから……。
タージャが俺のことを信頼していると言っていた。
俺達みたいに向き合っている人間とポケモンを引き離すのは心苦しいと。
あの時のあいつの瞳は、確かに迷っていた。
もしかしたら、戦わずに解り合えたのかもしれない。
だが、それをするには遅すぎた。
もう引き返せない場所にいるのだ。あいつも、俺も。


******


最上階にはすでに誰もいなかった。
鐘の音が聞こえてからたいぶ時間が経っているから当然だろう。
鐘の前まで足を進める。
以前この鐘を鳴らした時、フウロさんから強く優しい音だと言われた。
今鳴らすと、どんな音がするのだろうか。
祈りを込めて鐘を鳴らす。
先程聞こえたものより幾分鈍く重い音が響き渡った。

N、聞こえるか。
これが俺の心だ。
prev * 25/47 * next
- ナノ -