白銀の頂で待つ者
トレーナーになりたくてなった。
強い人と激しいバトルをするのが好きだった。
強さを求めて、リーグチャンピオンになった。
それでも満足できなくて、他地方のリーグも制覇した。
バトルフロンティアというところにも挑戦した。
そうやって、必死で登り詰めた頂点は、
−−−−更地だった。
******
肩に乗ったピカチュウのコウが、弾かれたように顔を上げた。
コウの視線の先に注意を向けると、吹雪で霞む視界に人影が映った。その後ろをポケモンが付いてきていている。
ハヅキでも、アオイでもない。
「挑戦者、か」
今回の挑戦者は、僕を本気にさせてくれるだろうか。
楽しいと思わせてくれるだろうか。
消えてしまった胸の内の炎をもう一度燃やしてくれるだろうか。
コウを見ると、すでに電撃をだして威嚇している。
久しぶりのバトルだからか、気合いは充分みたいだ。
僕も、久しぶりの挑戦者を見据える。
吹雪で朧気だった人影はしだいにはっきりし、表情まで見えるようになった。
挑戦者は、旅立った時の僕と同じ年頃の少年だ。驚愕の表情で僕を見ている。
「あなたは……」
「……」
黙ったままの僕をじっと見つめ、挑戦者は恐る恐る訊ねてきた。
「ヒヅキさん、ですか?」
僕は答えなかった。
それを肯定と受け取ったのか、彼は僕を見据え、緊張気味に口を開いた。
「僕は、ワカバタウンのキョウスケといいます。あなたに憧れてトレーナーになり、ここまで来ました」
ここに来る人達は、みんなそう言う。
そんな感情、向けられたくないのに。
「僕と、バトルしてください!」
答えるかわりにボールを投げる。
ボールが地に着いた瞬間、バトルは始まった。
******
「戻れ、セイ」
勝敗は、あっさり着いた。
ここまで辿り着くだけあってなかなか強かったけど、まだ足りない。
いつものように、虚しさだけしか生まれない。
やっぱり、この程度か。
せっかく気合いを入れていたコウは、戦いに出されなくてふてくされている。
あとで、好物のリンゴをあげよう。機嫌直してくれるといいけど。
敗者となった彼を一瞥すると、力なく地に膝を着いて打ち拉がれていた。
多分、もう二度とここには来ないだろう。今までの敗者の同じように。
興味の無くなった彼に背を向ける。
「待ってください!」
突然、背後から声が聞こえた。
振り向くと、彼は立ち上がっていた。
「さっき、僕は手も足も出ませんでした」
その瞳に、諦めや絶望の色はない。
「でも、もっと強くなって、またここに来ます!」
ただ、激しい炎を燃やしている。
「何度でも、あなたに挑み続けます!」
あの頃の自分のように。
「いつか、絶対にあなたを越えてみせます!」
もしかしたら、彼ならば−−−。
「受けて立つ」
小さいけれど、確かな炎が胸の内で燃えた。