英雄とは
「なあ、レシラム。少し話したいことがあるんだけど、聞いてくれるか?」

レシラムは首を傾げたが、促すように鳴いた。

「オレさ、ずっと考えてたんだ。英雄とはなんだったんだろう、って。どうしてオレは英雄になれたんだろう、って」

それは、あの戦いからずっと考えていたことだった。
オレは生まれも育ちもごくごく普通の一般家庭で、普通にポケモンが好きな普通の少年だ。あの時、オレがカラクサタウンにいなければ、あいつがカラクサタウンにいなれば、あいつがオレのポケモンの声を聞かなければ、オレが英雄に選ばれることはなかった。もし、あいつが聞いたポケモンの声がオレ以外のポケモンの声だったら、そいつが英雄になっただろう。
オレがレシラムに選ばれたのは、偶然が重なった結果だ。

「多分、誰でもよかったんだろうな」

言い終わると同時に、レシラムに頭突かれた。
痛む頭を押さえて顔を上げれば、レシラムがオレを睨んでいた。怒らせてしまった。

「言い方が悪かったな。誰だって英雄になれるんだってことが言いたかったんだ」

レシラムの瞳から険しさが消えた。オレは安堵して、話を続けた。

「英雄って、何も特別な存在ではないんだ。それはオレで実証済み」

自分で自分を指差す。これ以上のサンプルはない。
レシラムが思わずといったふうに笑った。

「で、こっからはオレの推論だけど、英雄って、苦難から逃げなかった奴のことだと思うんだ。苦しんだり悩んだりしながら、人は自分の理想や真実を求める。そして、それを乗り越えて強くなる。そう思うんだ」

それは、簡単なことのようで難しい。
人はすぐに苦しみから逃げたがる。ある時は諦める事で、ある時は楽観視することで。
オレも一人だったら逃げていただろう。オレが逃げずに立ち向かえたのは、支えてくれた仲間がいたからだ。

「だから、チェレンやベルも英雄といえるし、レシラムやゼクロムに選ばれる可能性はあったと思う。オレがレシラムに選ばれたのは、ただ単にオレがお前を必要としたからで、Nがゼクロムに選ばれたのは、あいつがゼクロムを必要としたからだろう。また怒るかもしれないけど、神話の双子の英雄もそうだったんじゃないか?」

レシラムが頭をすり寄せてきた。なんだか、親や先生に「よくできました」と頭を撫でて貰ってるみたいだ。
レシラムの体温が心地よくて、自然と笑みが零れた。
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