強くなりたい
早朝のポケモンセンターは、人影もまばらで静かだった。ちらほらとすれ違う人も、格好を見る限りポケセンか内部のショップに勤務してる人のようだ。
リクを抱いて、ポケセンの受付に向かう。
受付のお姉さんはオレを見るなり、少々お待ちくださいと言い置いて、奥へ引っ込んだ。
しばらく待っていると、昨日のポケモンドクターがやってきた。
姿勢を正し、軽く会釈する。

「おはようございます。タージャの様子はどうですか?」

「大丈夫。すっかり元気になったわ」

ドクターはそっとタージャが入ったモンスターボールを差し出した。
リクを片腕で抱え直し、それを受け取る。
モンスターボールの中のタージャと目が合い、軽く片手を上げて挨拶された。
元気そうな姿に安堵する。

「ありがとうございます」

リクと一緒にドクターに頭を下げる。
ドクターは目元を和ませて、どういたしましてと言った。
もう1度ドクターにお礼と別れを告げて、ロビーに戻る。

三人掛けの椅子に腰掛け、左隣にリクを座らせた。右隣にタージャのモンスターボールを置き、開閉ボタンを押す。
光とともに現れたタージャは、緋色の瞳でオレを見上げた。
その頭をそっと撫でる。

「タージャ、ありがとな。オレのために戦ってくれて」

タージャはただ、じっとオレを見つめた。
今、タージャは何を思っているんだろう。
ポケモンの言葉がわからなくても、せめて、気持ちを汲み取ってやれたらいいのに。

「それから、ごめんな。無理してるの、気付いてやれなくて」

タージャがぺちぺちとオレの手を軽く叩く。
気にするな、と言われた気がした。

リクがオレの膝に乗り、タージャに向かって身を乗り出す。
その頭を、タージャがさっきみたいに軽く撫でた。

「オレ、ちゃんとトレーナーとして、お前を支えられるように頑張るから。だから、お前もひとりで無茶しないで、頼ってくれよ。つっても、まだまだ頼りねえかもしれないけど」

べしっと、後頭部に衝撃がきた。思わず、鈍い痛みを主張する頭に手をやる。

「タージャ?」

目の前で、その原因であろうタージャの蔓が揺れる。
タージャは勝気な目を細め、口角を上げた。

「ありがとな」

つられて、オレの目元も緩んだ。
昨夜からずっと肩にのっかっていたものが、少しだけ軽くなったのを感じた。

「それと、さっきの今でこんなこと頼むのは恐縮なんだが、リクがこの街のジムリーダーに挑戦することになったから、協力してくれないか?」

「ジャ!?」

ぎょっとタージャは目を剥いた。
気持ちはわからないでもない。

あんぐりと口を開けたタージャに、リクが何事か話す。多分、そうなった経緯を説明してるんだろう。

リクの話が一通り終わると、タージャはいまだ訝しげな目でリクを見つめた。リクが尻込みする。

「手伝ってくれるか?」

タージャは深くため息を吐き、渋々といった体で頷いた。
リクが勢いよく尻尾を振る。

ほんと、意地っ張りだけど、いいやつだな。

「よし、そうと決まったら作戦会議だ」

「きゃん!」

「ジャ」

リクはひょいと膝から飛び降り、タージャはいつものようにオレのフードに入った。


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