奮い立てる
「食後のハーブティです」
と、ウエートレスがオレの前に湯気の立つカップを置いた。カップからは爽やかなレモンの香りが漂ってくる。
香りだけならレモンティかと思うが、ハーブティと言っていたからレモングラスだろう。
メニューには日替わりハーブティとしか書いておらず、これを持ってきたウエートレスもどこかへ行ってしまったから確認のしようはないが、さしたる問題じゃない。重要なのは味だ。
音を立てずにカップを持ち上げ、ハーブティを口にふくむ。
オレは目を見張った。
こんなうまいハーブティを飲んでしまったら、他のハーブティはもう飲めない。
料理もうまかったが、茶に関しては流石イッシュ1と言われているだけのことはある。
見た目も綺麗な料理の数々。絶品のハーブティ。小物1つ1つにまでセンスが光る内装。そんな店内に流れる、落ち着いていながらどこかポップな音楽。店員はもちろん、ランチとお喋りを楽しむ客にまで品がある。
今、このレストランを構成する全てのものが、オレを落ち着いた気分にさせてくれていた。
まあ、目の前に血の気の多い顔でポケモンフーズにがっつくリクとタージャがいなければの話だが。
「リク、タージャ、うまいか?」
2匹はポケモンフーズを口に詰め込んだまま、こくこくと首を縦に降った。
昨日ジム戦のために修行をした結果、リクだけでなくタージャまで気合いが入ったらしい。
どうもタージャはスイッチが入ると熱血になるらしく、何度も諦めかけたリクを激励した。それに答え、リクも歯を食いしばってつらい修行に堪えた。
で、修行が終わった頃にはこの顔だ。たった1日の修行が、ここまで成果をもたらすとは思わなかった。
変化は顔だけじゃない。
なんと、リクは逃げ足が速くなっただけでなく、静止しているものになら攻撃できるくらいまで成長した。
これなら、ジムリーダーだろうが軽く倒せるだろう。
……頑張って強気な考えをしてみたが、正直どうなんだ、これ。
今までのリクを知ってる身としては、これだけでもすごい成長だが、こんなんでジムリーダーを倒せるのか?
一応作戦はあるが、最終的には運頼みだしな。
「ジャ」
すっと伸びた蔓が頭を小突く。
タージャとリクを見やると、2匹は無言で頷いた。
悩んでいてもしょうがねえか。
やれることはやったんだ。あとはもう、リクとタージャと自分を信じるしかねえ。
人事尽くして天命を待つ、だ。
******
レストランの会計を済ませ、後ろに人がつっかえてないのを確認してから、オレは食事中ずっと気になっていたことを訊いた。
「ここって、本当にジムもやってるんですか? そうは見えないんですが」
「ジムは奥にあるんです。流石に、お客様がいるところでジム戦をするわけにはいきませんから」
穏やかな笑みをたたえ、レジをしているウエーターは答えた。
なるほど、言われてみれば。
「きみもジムに挑戦するんですか?」
「そのつもりで来ました」
頷くと、ウエーターは髪色と同じ緑の目をますます細めた。
「そうですか。それで、きみのポケモンは?」
なんで、そんなことを訊いてくるんだ?
ジム戦に必要なんだろうか。
「ツタージャとヨーテリーですけど」
今はモンスターボールに入っている2匹の種族名を答える。
ウエーターはかすかに残念そうな顔をした。
「なるほど。炎タイプが苦手なんですね」
何故炎タイプ限定。
タージャは炎タイプの他にも虫タイプや氷タイプなんかが苦手だし、リクは格闘タイプが弱点だ。
首を捻っている間に、緑の髪のウエーターは近くにいたウエートレスにレジを頼み、レジカウンターから出てきた。
「それでは、ご案内します」