笑顔の理由
「ジュンコー心配したんだからなっもうっ」
とりあえず一番の目的は達成した。やはり首元が空いていると落ち着かないし寂しい。
「もう…離さない…」
ジュンコも顔を赤らめている。なんて可愛いんだろう。
普段だったらここで、迷子のジュンコ探しを手伝ってくれていた生物委員会委員長代理、竹谷八左ヱ門のツッコミが入る所だが。
「つまり、あれか、俺が馬鹿だということか、そうなのか…」
先程からずっと、孫兵の後ろで歩きながらぶつぶつと何か呟いている。
――考えるなんて、慣れてないだろうに――
自分が竹谷八左ヱ門という人間を理解するのには、実はそんなに時間はかからなかった。この人間は、言葉をあまり使わない。別に喋らないとかそういうのではなく、何らかの「手段」として使わない。
それじゃあ何を使うのか。
「まさか、一年生にもそう思われて…いや…でも…」
――無理に考えて、言葉にしようとなんてするから――
本人は無意識なのだろう。落ち込んでいたら裏山に生き物探しに連れて行かれる。楽しいことがあったら話す機会をくれる。迷惑をかけたら引っ叩かれる。それが竹谷八左ヱ門である。
今まで生物委員会は大所帯というわけではなかった。しかしある日突然一年生が四人も入った。
「そう考えてみたら、あれは憐れみの目…?」
――何を空回っているんだろうな――
とりあえず、自分達と反対の方向で捜索をしているであろう一年生を探す。冷たい風が頬を撫でた。
一年生が何を思っているかは解らない。ただ少なくとも、今の竹谷八左ヱ門を見て何かおかしいと思わない程、一年生が馬鹿とも思わない。
「俺…馬鹿なのか…いや、そんなまだ大丈夫なはずだ!」
――ほんの少し解るだけでいいのに――
ふと、四つの小さな水色が視界に入った。顔はよく見えなかったが、恐らく生物委員の一年生だろうと、ほぼ確信しながらそちらへ向かって歩く。孫兵の歩みが変わったからだろう、八左ヱ門もぶつぶつ呟くのを止め、前を見たようだ。
「…?」
しかし、すぐに孫兵は立ち止まった。何やら様子がおかしい。
「…なんだ?」
八左ヱ門も気付いたようで、孫兵の隣に並んで呟いている。よく見てみれば、三人はうずくまって下を見ていて、表情は解らない。しかし一平は泣いているようだった。唯一立っていて表情が見えるのが虎若であるが、泣くのをこらえているかのように険しい顔である。
訝しげに孫兵が首を傾げる。その横の八左ヱ門は一瞬走り出しそうになるが、すぐにこらえるように立ち止まった。
――…何やってんだか――
「竹谷先輩」
一年生が心配じゃないとかそういうことはない。でも、ここは自分じゃない。
「考えないでください」
――行けよ、はやく――
一瞬、竹谷八左ヱ門がこちらを見た。そしてすぐに走り出す。
それに気付いた一年生達が一斉に泣き声を上げて。
「…寒いね、ジュンコ」
八左ヱ門が半ば一年生達に押し倒される形で、地面の上でひとかたまりになっている。
雲の切れ目から挿す日の光が、一年生の涙を光らせていて、そんな一年生達の下で、八左ヱ門は少し苦しそうに笑っていた。
「行こうか」
そして、世話の焼ける先輩をもう少し苦しめてやろうと、日の光を目指すように走り出した。
―――――――――――――――――――
三部作でした。
孫兵って超古株だけど何故かキャラがつかめません←
そういえば昔の原作のジュンコってけっこうリアルだった覚えがあるなあ…
しかもアニメって緑髪で制服青だったかしら?
一年生達が生物委員会入ってきたばっかの頃、「先輩」っていう立場に悩む竹谷君、のつもりです。
孫兵は別に人間嫌いとかじゃなくて、人間も生き物なんです。ジュンコ達と一緒なんです。
マイペースだけど、精神的にはとっても大人なんです。
そして、蛇とか虫とか人間とか、とにかく生き物を、とってもよく見ているのだと思います。
という妄そry
やっぱりたまご達には笑っていてほしいです。