寂しさの理由


 



「ねえねえ」
きっかけはとても些細で、三治郎の一言からだった。
「竹谷先輩ってさ、いつも笑ってるよね」
「それは三治郎もじゃん」
三治郎の言葉に虎若が茶々を入れると、そうじゃなくってー、と三治郎は少しふて腐れたように声を上げた。そんな二人を、孫次郎と一平は首を傾げて見ている。
「こないだ、飼育当番忘れちゃったんだよ。でも…」
天気は曇り。今にも崩れそうな空の下で、時折震えながら、四人は話していた。いつものように委員会があり、恒例となってしまった三年い組の伊賀崎孫兵のペット探しをしていた所であった。相変わらずの危険なペット達である。一年生は四人で行動、と、生物委員会委員長代理であり、噂の人である竹谷八左ヱ門に言われ――その後はこうして四人で学園中の茂みにもぐり込んでいたのであるが。
三治郎の話を聞いていると、気がついたら四人はその場に座っていた。

「竹谷先輩、怒らないんだあ」

そんな三治郎の言葉に、他の三人も黙り込む。ひゅう、と風がひとつ、四人の顔を撫でた。

「笑ってるよね…」

ぽつりと孫次郎が言う。皆それぞれ三治郎と同じような経験があるようで、それぞれ何かしら思い出しては頷いていた。
笑ってるけど、と、今にも消えそうな声が聞こえてくる。囁くような声だったが、それはしっかりと耳に入ってきて、一平に視線が集まった。


「…こまってる。竹谷先輩」


こまってる。虎若が一平の言葉をくり返した。いつも笑ってる竹谷先輩。もちろん一緒に思いっ切り笑って、はしゃいだことはたくさんある。でも、何故だろうか。

「いつも笑ってるのに、こまってる?」

虎若の言葉を最後に、再び沈黙が訪れる。虎若は自分の言葉に対してあれ?と首を傾げていた。
「ぼくたち…」
その沈黙を、孫次郎の震える声が破った。


「ぼくたちが、こまらせてる?」


そして沈黙。でも笑ってる、と呟いたのは誰の声だろう。


「あ!」


ふと上がった大きな声。首を傾げながら、びくっと体を震わせながら、泣きそうになりながら、三人は声の主、虎若を見た。立ち上がった虎若は、曇り空を見上げてまた大きな声を出す。


「あやまりに行かなくちゃ!!」


誰に、は解っている。何を、は解らない。すると今度は一平が大きな声を出す。


「い、いみわかんないよ!」


今度は一平へ視線が移った。それに少し怯みながらも、一平は座ったまま言葉を続ける。


「なにをあやまるんだよ!いきなりそんなこと言ったって、よけい…」


竹谷先輩をこまらすよ。
最後のほうは上手く言葉になっていなかった。でも、他の三人は一平の言いたいことが解ったのだろう。それを最後に、今までで一番重たい沈黙が周囲を包んだ。

「ごめんなさいって言っても、竹谷先輩は笑うのかなあ」

三治郎が呟く。しかし、三治郎へ視線は集まらなかった。
笑ってほしくないの?違う。じゃあどうしてほしいの?
こらえ切れなくなったのだろう。一平の小さな泣き声が聞こえてきた。冷たい風がもう一度やってきて、四人をひゅうと撫でる。それが何だか寒いというよりも痛くて、四人は何も言えなくなる。
一平は自分の腕に顔をうずめていて、孫次郎は身を守るように両腕で体を抱いていた。三治郎は座ったまま地面を見つめて、虎若は立ったまま曇り空を見上げている。そのままどれくらい経ったのだろう。その声は突然響いた。



「お前ら!!!」




















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