明日にはきっと


 



長かったな、と心の中で呟いた。そして頭の中で、学園を出てからどれくらい経ったのかを数えてみる。その数字が思いの外少なくて、食満留三郎は眉間に皺を寄せた。どうしてこんなにも情緒不安定なのだろうか。しっかりと握った拳に更に力を入れて、留三郎は走ることだけに意識を向けた。


「あ、おかえり留三郎」


学園に着いたのは真夜中であった。真っ先に帰った長屋の部屋はもぬけの空で、それが解ると足は自然と保健室へ向う。きっと居るだろうという予想は当たり、級友の善法寺伊作は笑顔で留三郎を迎え入れた。
「休まなくていいの?寝てないんじゃない?」
「ああ…」
曖昧な返事を返すと、伊作は作業と止めて――何やら薬を作っていたようであるが――手招きをして見せた。
「怪我はないみたいだね。とりあえず入りなよ」
言われるままに保健室へ入る。そして伊作の隣へ立つと、意図せず体は崩れ落ちるかのようにその場へ座り込んだ。
「それで、どうしたの?」
そのままでいると、伊作が声をかけてきた。自分自身は特に何をしようと思ってここに来たわけではなかったし、先程伊作が言った通り、大した怪我もしていない。


「何か言いたいことがあるから、ここに来たんでしょ?」


伊作の顔を見てみれば、ついさっきまでしていた作業跡をじっと見ている。口元には変わらない笑顔だ。

「……いや」

とりあえず否定をしなければ。そうして出た言葉はたった一言であった。それを聞いても伊作は相変わらずの笑顔である。

「…ちょっと、疲れたんだ」
「そう。きつかった?」
「ああ…いや」
「どっちなのさ」

曖昧な答えしか返さなかったが、伊作は終始笑顔だったし、最後には笑い声も混じっていた。

「なあ、伊作」
「うん?」
「冬休みは、どうするんだ?」
「いつも通りだよ。新野先生がいらっしゃらなくなるしね」
「そうか…」
「留三郎は?」
「俺は…まだ」

特に任務も受けてないし、学園に残っても自主練位しかやる事もないだろうが。

「そっか、それだったら」

何やら思い付いたらしい。伊作が楽しげな声を上げる。そんな伊作を見ている自分は、今どんな顔をしているのだろうか。


「乱太郎達がさ、やっぱり補習で帰れないんだって。まあだから僕が残るっていうのもあるんだけど」
またあの一年は組か、と留三郎は小さく笑った。確かに、いつも騒ぎを起こす後輩達のことだ、伊作が残るのも頷ける。
「留三郎も手伝ってよ」
「は?手伝うって何を…」
いきなり何を言い出すのだろう。別に嫌というわけではないが。


「きっと皆喜ぶよ」


笑顔のまま発せられた伊作の言葉に、自分の中で何か弾けたような気がした。

「…そうか」
「そうだよ…もっと自覚持ちなよ、お父ちゃん」
「うるさいぞ」

そう言って睨んで見せると伊作は声を上げて笑った。それに合わせて自分の口元が緩む。


「今日はもう寝なよ」
「ああ。じゃあお先させてもらうよ」


保健室から出ると冷たい風が頬を撫でた。外はこんなにも寒かったのかと今更ながらに思う。


「さて、何をしてやろうかな」


今日はゆっくり寝て、起きたら年末の買い出しにでも出かけよう。大食らいの後輩のこと、食料は少し多めに買っておいたほうがいいだろう。いや、いっそのこと皆を連れていったほうがいいのかもしれない。
脳裏に浮かぶ後輩達の顔に、笑みが漏れる。自分にできることは、まだまだたくさんあるのかもしれない。




















―――――――――――――――――――
メランコリィ留三郎。伊作はちゃんと解ってます。
しかしどうにも上手く文字に出来ない…
乱太郎ときり丸は、六年生になったらこの二人みたいになりそうなイメージ。
なんだかんだで上級生は後輩達のことが大好きです。

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