きっとそれは日常2



 



一瞬自分の耳を疑った。忍術学園にいる以上、こういうことはあってもおかしくはない。おかしくはないのだが。
「えーっと…三郎、冗談だよね?」
「おい人をおちょくるのもいい加減にしろよな」
八左ヱ門も同じような事を思っていたのだろうか。自分の顔のままにこにこ笑う三郎に、二人は同時に声を上げていた。
「二人して失礼だな。俺はいつでも大真面目だ」
言うと三郎はむくれて見せる。命を狙われているとは思えない軽さである。
「今日は4月1日じゃねえぞ三郎」
「相変わらずお前は馬鹿だな馬鹿竹」
「まあまあ…しかし三郎。確認するんだけど、冗談じゃないんだよね?それとも真面目に冗談を?」
「二人して何だよ。そんなに信じられないなら先生に確認してみろって」
やれやれとばかりに三郎は親指で自分の後ろの入口を指した。顔には悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。
「…誰に狙われてんだよ」
「今日密書を届けた先の城の敵さん」
八左ヱ門は信じることにしたのだろう。ため息混じりに問う。
「いつ襲ってくるかは予想ついてんのか?」
「さあな。が、もう刺客は放たれてるらしい」
二人の会話についていけてない雷蔵は唖然としたまま八左ヱ門と三郎を交互に見た。頭の中ではぐるぐると思考が回っている。
「雷蔵。らいぞーう。もしもし、もしもし、応答せよー…完全にフリーズしてるな」
「お前のせいだっつーの」
ぱたぱたと目の前で手を振られ、はっとなる。たった今三郎の肩越しに生徒が入口から出て行くのが見え、気がつけば食堂は自分達だけになっていた。
「と、とにかく…これからどうするの?」
「どうしたらいいと思う?」
何とか絞り出した問いに返ってきたのは問い。うめき声を上げながら雷蔵は頭を抱えて。
「おー迷ってる迷ってる」
「やめてやれよ…」
けらけらと笑う三郎はまるで悪戯っ子である。焦っているのは自分だけなんじゃないか、そう雷蔵は思い始めていた。
「ま。先生も警戒しろとしか言ってこなかったしな。情報としても不確定なわけだし」
「そうは言うけどな。今日は寝ずの番になりそうだぜ」
「お?ありがとう八左ヱ門俺はゆっくり眠らせてもらうとしよう」
「ってこらこらぁ!」
いつものことではあるが、どうにも三郎のペースは崩せない。ひとつ大きなため息を吐くと、何やら言い合っている二人を見る。
「三郎…」
とりあえずと思い名を呼んでみると、思いの外か細い声が出てしまった。案の定、二人は言い合いをやめてどうしたのかという目でこちらを見てきた。
「あ、いや、その」
慌てて何か言おうとするが、何を言おうか迷ってしまい出てきた言葉はあーとかうーとか情けないものであった。
「雷蔵」
頭から煙が出そうな状態でいると、今度は三郎に名を呼ばれる。反射的に顔を向けると、三郎は今までにないくらいの爽やかな笑顔だった。
「千の顔を持つ男だぞ、俺は」
その言葉に釣られて自分の顔にも笑みが浮かぶのが解った。八左ヱ門が困惑顔で二人の顔を交互に見ている。そんな八左ヱ門に笑顔を向けて、さて、と一言を発して歩き出す。同じ顔の二人がすれ違う時、もう一度互いに顔を見合わせて笑い、その姿は暗い廊下へと消えていった。
「どうにかしそうだよな、あいつ」
入口を見つめたまま八左ヱ門が呟く。その言葉に肯定した後、心配することないよ、と続けて。
「なんだかんだで一人じゃないからね。三郎は」
そして今度は二人で笑った。








本当は続きを書きたかったけどここまでにしたお話。
いつか書きたいなぁ。
気付いた方はいらっしゃるでしょうか…?


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