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「も、もう一度探すの、私もお手伝いさせていただきますから!どうか御慈悲を!」
「…もう一度探すっていっても。もう依頼主には保護した趣旨を電話で伝えてるんだよねとっくに。今日は無理なので明日お引き取りに伺いますってさ。もちろん依頼料もろもろの件も話し合い済み」
「………えーと」
「これからその依頼主に、また逃げちゃいましたって電話を掛け直す僕の精神的労力、君にわかる?」
「ううぅううう……」

この反応、さて何度目だろうか。
居ないし助けてくれるわけでもない見知らぬ助手のことをブツブツ考えるのはこの際さて置いてだ。つまり、阿南さんが痛手も何の損害も負わずこの事態を収拾するためには、手乗り文鳥を今日中に見つけだす必要があるわけだった。七日七晩、要するに丸一週間掛けてようやく探し出したような子を、もう日も暮れようという本日残りわずかな時間で?なるほど、無理です。絶望とはこのことです。私でも怒る。

「まあ、そこはともあれ。君が捜索を手伝うっていうのは確かにごもっともな申し出だ。むしろ当然の義務だよね」
「そのとおりです…」

人は己に非があるととことん下手に出れる生き物だけれど、もちろん私も例外ではなく。最悪依頼の妨害料を支払え、と言われても泣き寝入るしかないこの状況なら、必死になって探す手伝いをする方が何倍も気が落ち着くし、学生の財布にはむしろ良心的だった。幸い明日も休日だ。もし明日見つからなかったとしても、平日すら夕方になれば使いっ走りとして走ってこれるのが、高校二年生、まだ受験にもつま先を付けるばかりで余裕を持って遊んでいられる学生の強みでもあった。…探偵の役職に関ることのできる、可愛らしく言えば特殊な職業体験に心が弾んでいることも、間違いではない。残念なことに。

「ぜひ、お手伝いさせて下さい」

深々と腰を折り、出来る限りの丁寧なお辞儀を添えて私は阿南さんに誠意を伝えた。ただ足は下ろしているから、もう土下座じゃないけど。

「ま、今日はもう遅いし。君は明日も休みでしょ?しょうがないから、明日から。お手伝いよろしく」

そういえばパンプスをまだ履いていなかったと、放り出したままの茶色の濃いタイツを見て少しばかり恥ずかしくなった自分に阿南さんはふてぶてしく笑いかけた。こちらが多くを語らなくても、先ほどに考えていた筋書きをそっくりと読み取ってくる阿南さんのある種の察しの良さには正直天晴れと感嘆をもらす。それが少々うるさく感じたのがあのインスタント講義ではあるけれど、さすがは探偵、一から十を見つけろ、木を見て森を感じろ、なんか要するにそんな感じだった。

「…ん?」

話も纏まりようやく帰路につけるかなと、クリーム色のリボンがアクセントになった真っ白なパンプスに足を入れつつそんなことを思っていたまさにその時、……私に伝ったのは果たして、電流のような、もしくは頭に電球が飛びだすようなあの感覚で。

つまり。

擬音を発したまま動かなくなる私に、阿南さんが「どうしたの?」と神妙に言葉を投げかけるのを合図に、しばし固まった体に電源を入れ直した。

「その、明日依頼主さんがやってくるお時間っていつ頃なんですか?」
「…今くらいの時間だよ。夕方、定時の仕事終わりに迎えに来ますって手筈だけど、それが」

何か、と続くであっただろう阿南さんの台詞を追いやって、私はここ一番のハリキリ声を上げて高らかに宣言したのだった。
……やばい、ひらめく。ひらめいてしまった。それはもう色々とひらめきまくってしまった。

「私、それまでに必ずアヤコちゃんを見つけてみせます!絶対です!約束します」
「…はい?」
「アヤコちゃんの飼い主にもお電話せずに済みますよ!」

私は阿南さんに詰め寄るようにローテーブルに手を添えつつ身を乗り出した。詰め寄られた当の阿南さんは突然の豹変ぶりに顔面を引きつらせて話を読み込めていない様子だったけれど、ハイテンションになっている私がそれに気づくことはなく。

「ちょっと待って、話が読み込めない」
「そのかわりと言ってはなんですが、もし無事に見つけられたら……私の探偵依頼をどうか引き受けてください!」
「えっ」
「お願いします!!」
「………はあぁあ?」

今度、呆気な顔で固まって動かなくなったのが私ではないとしたら、この部屋にいるたったもうひとり、それはきっと阿南さんの方だったのだろう。




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