ハローハロー宇宙人さん

授業編1

俺も、水野さんも芸術の選択科目は美術を取っていた。

だけど、俺も水野さんも大して絵は上手くない。

クロッキーだと言われて書いた人はどちらも不格好で顔を見合わせて笑った。

兎に角、特に上手いという理由で美術をお互いに取っていない事だけは分かった。



その日の授業の課題は『心象風景』だった。
心の中にある風景と言われてもよく分からない。

何を描いていいのか迷って、ちらりと横に座る水野さんを見る。

そこに描かれていたものに思わず息を飲む。

とても印象に残る青だった。

木なのだろうか。棒のようなものが折り重なっている様に見える。
決して上手なものでは無いのかもしれないけれど、迷い無く描かれているそれはとても目を惹きつける。

美しいと思った。
これが水野さんの心の中なのだろうか。
少なくとも、そう思われたいという風景だ。

「描かないのかい?」

時間が無くなってしまうよ。
水野さんはそっと言った。

美術の教師はあまり注意もしないので教室内はあちらこちらで小さな声がしている。

「なに、描いたらいいのか分からなくて。」

水野さんは何を思い浮かべてる? 俺がそう聞くと水野さんは少し考えこむ様なしぐさをしてそれから「望郷。」とだけ答えた。

聞きなれない言葉だった。
それが、故郷を思い浮かべる気持ちだと気が付くまでに数秒かかる。

彼が描いているのはこの辺の風景じゃない気がした。
もっとどこか別の場所が彼の心象風景なのだろうか。

それとも――。

「かっこつけて言ったけど、親戚の家の近くの風景だよ。」

へにゃりと笑う水野さんの言い方が濁している様に聞こえた。
普通は祖父の家とか叔父さん家みたいに言う気がした。

だけどそれは、小さな小さな違和感だった。
その違和感も「で、武藤君は何を描くんだい?」という言葉に消されてしまう。

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