ハローハロー宇宙人さん

映画編

水野さんと見た映画は、実のところすこし俺には難しかった。

勿論アクションシーンはすごかったし、面白かった。
ちょっと笑えるシーンでは一緒に笑ったし、
とにかく、映画はとても面白かった。

だけど、歴史の部分は正直少し分からない部分もあったし、外国との交易とか身分違いの恋とかはよく分からない。

映画館を出て、お互い興奮気味に映画の感想を言い合う。

「そういえば、王子が逃亡を図るシーンなんだけど。」

水野さんが途中にあったシーンの事を言う。

何故あそこで、諦めてしまったのかが分からないし、まるでそれを正しいみたいに言う彼の友人もそれから、当たり前の様に受け入れることもよく分からなかった。

「あそこはちょっと、引っかかり覚えちゃって。」

俺が言うと、水野さんは少し違った感想を持っていたみたいだった。
だから、半ば高揚感のなか自分の思った事を伝えたくてとにかく言葉を発してしまった。
「こう、全然違う常識で動いてる人っていうか、あまりにも価値観っていうのかが違いすぎて……。」
「価値観?」
「なんていうか、まるで異星人みたいな。」

なんて言ったらいいのか分からなかった。
だから、まるで違う世界で生きている人という例えで、異星人という言葉を使ってしまった。

俺がそこで言葉を止めたのは、水野君の表情が少し曇っていることに気が付いたからだった。
異星人という例えは良くなかったかもしれない。水野さんの知り合いに異星人の人がいないとは限らないし、とにかく選んでしまった言葉を間違えてしまったのいうのが空気で分かる。

「ち、違うんだ。」

俺が慌てて取り消そうとしたけど「大丈夫。他意が無いってことはわかってるから。」と言って取り消させてさえくれない。

何故、こんなに水野さんが傷ついたみたいな顔をしているのか分からなかった。
一つだけ分かることは、俺が一方的にデリカシーの無いことを言ったって事だ。

「ご、ごめん。水野さんの知り合いとかに異星人に人がいるかもしれないのに、俺、すごく酷いことを言ってしまった。
もしかして、水野さんの大切な人に異星人がいるの?」
「武藤君はどう思う?」


水野さんは逆に俺に聞いてくる。
そういえば、異星人の中には自分の事を宇宙人という人がいると聞いたことがある。

別の星は遠くて、こんなに近くに異星人の知り合いがいる人間がいるとは思わなかったのだ。

だけど、なんでだろう。さっきまではちゃんと楽しい雰囲気だったのに。

どうやって答えたらいいのか分からなかった。
もし、水野さんの知り合いに異星人がが居たら気分を害したよね、ごめん。というのは何か違う気がした。
だから一回深呼吸をしてそれから、俺の思っているありのままを話そうと思った。

もう次の上映が始まったらしく、映画館の前には誰もいない。


「ごめん。俺、言葉選びを間違えた。
どこか遠くの世界の事だって切り離してしまっただけなんだ。
だけど……、もし、水野さんが異星人だったとして。
もしも、思っていない位のその人に自分との違いがあったとすれば、それは、本当は嬉しいことなのかもしれない。それこそ、恋に落ちてしまうかもしれない様なそんな違いなのかもしれない。」

せめて嘘はつかないでおこうと思った。
その場で考え付いたことだったし、水野さん自体を例えに出してしまったのは良くなかったかもしれない。

それなのに水野さんは、ぼんやりと俺の事を見つめた後、あはははと声を上げて笑った。
先ほどまでの微妙な表情はもう浮かべておらず、今まで見てきた中で一番機嫌が良さそうに見える。

「そうか。そうなら嬉しいな。」
「でも、単なる“例え”だよ。」

俺が答えると、別に仮定の部分はどうでもいいんだ、と言われた。
その言葉に少しだけ違和感を感じるけれど、それをきちんと言葉にできるほどの感覚では無かった。

「それよりなんか食べて帰ろう。」

上機嫌のまま水野さんが言う。

「何食べようか。」
「そうだなー。駅前のファミレスは? フライドポテトを食べさせてしんぜよう。」

ふざけた口調で水野さんが言う。

だからその時、水野さんが言った事と自分の言った事について、深く考える事なんてしなかった。





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