空色

雨上がりは天色の

河澄は俺の事を結局あの後も馬鹿にはしなかった。

永田の名前を隠して、ポツリポツリと断片的にしか話さない俺の話をただ静かに聞いて、それから一言だけ「そりゃあ、お前、怒れよ。」とだけ返した。
それっきり、元彼氏がどんな人間かとか、俺がゲイかどうかとかそんな事は何も聞かれなかった。

最後に河澄は制服のズボンのポケットから飴を一つ俺に渡した。
ソーダ味の雨は、秋の晴天みたいな色で、煙草吸うやつが飴とかダセエって少しだけ思ったけれど、それでもその綺麗な色の飴を見ただけで河澄の優しさみたいなものが伝わってきた気がして嬉しかった。


河澄が本当にいいやつかどうかは知らない。
永田だって、周りの人間の評判は良かったけど俺とは結局全然ダメだった。本当はいいやつだからとかそんな事はもう考えすぎて嫌になってしまった。

河澄が本当はいいやつなのか、単に後で俺みたいな馬鹿な人間の秘密を暴露して笑いものにしたいのかは知らない。だけどどっちでもいいと思えた。
少なくとも、馬鹿みたいに泣く俺に付き合ってくれたことも、この飴をくれたことも事実だから。
飴を口に入れると、甘くて少しだけ酸っぱくて、雨上がりの様な味がした。



その腫れた目で授業にでるのかと驚かれたのか呆れられたのかよくわからない反応をされたが、さぼるとかそういうのはあまり得意じゃなかった。

じゃあ、放課後遊びに行くぞと言われたので思わず頷いてしまった。
多分それ位弱っていたのだ。

雨はもうやんでいて、青空がのぞき始めていた。

だけど、これは想定外だった。
自転車通学の河澄の自転車の後ろに乗るように言われて思わず「無理、無理。」と首を振った。

「ほら、変な噂立てられるかもだし。」

いい加減あいつを基準に物事を考えるのはやめたいのだが、永田が一番心配してたのもそれだった。

「は? そんな事で俺が女にモテなくなると思ってるんだ?」

軽い口調で河澄は言った。
頭をガツンと殴られたみたいな気分だった。

「はは、あははは。」

突然笑い出した俺を怪訝そうにみる河澄に、気にするなと言って自転車の後ろに立つ。
車輪の横にある金具に足をかけるのだが中々難しい。
上手くバランスが取れず、かなり強く河澄の肩を掴んでしまう。

「悪い。」
「大丈夫っ。」

河澄は学校からの坂道をノーブレーキで下る。

「うわあああわああああ。」

思わず出てしまった叫び声に、前から河澄の笑い声が聞こえた。
雨でぬれたアスファルトの上を滑るように自転車が前へと走る。

自転車に乗って風を切るのは気持ちよくて愉快な気分にさえなってくる。
そういえばこの後何をするのか聞いてさえいないのに、楽しみだった。


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