薄紅色の桜の花びらが風に舞い上がる。
ふわり重力を感じさせないそれは命の終わりにとこぼれては、実を結び役目を終えたと潔く、儚く――美しかった。
窓を開けたくせに壁に背を預け、長い髪をなびかせながらこちらを見ている男と散りゆく桜は現実離れして、夢だ幻だと言われたら信じてしまいそうなくらい儚く完璧な美術品として、完成している。
窓枠に手をついて逃げられなくしてやれば、やはり男はこちらを見て小さく笑い、窓枠を掴むオレの手に指先だけ触れて、考えるように少しだけ放してからもう一度触れた。
今度はしっかりと重ねて。
鼻で小さく笑いながら額を合わせる。ごつり。どちらからともなく視線をはずし、お互いの視線の先は目の前にある男の唇。
色素の薄い唇はそれでもやはり色を煽る造りになっている、目の前の銀色がどう思ったかはしらないが視線をあげればタイミング良く視線が合い、お互いが小さく吹き出した。
銀色が笑ったままオレの頬に手を当てて。
「何で笑うんだぁ」
「うるせぇな、お前こそ」
「いいだろぉ」
どちらかが気が向けばすぐにでも唇を奪える位置で、それでもくすぐりあうように柔らかい感情にほだされたまま、先程まで苦ではなかった沈黙がまた降り空気が一瞬澄んだ気がして――桜吹雪が部屋の中へと舞い込む中、純白のカーテンが春風にふわり揺れるのに紛れるように唇をあわせた。
* 。 桜便り (世界のあまりの優しさに、一瞬息ができなくなった) 。 * 20140411(原案:そうさん). 書かせていただきありがとうございました! 渡季 |