リコと幹部(新社会人)(夢)


9月に入社して、秘書課に務め初めて半年。

隣のデスクの女の子はとても可愛らしかった。
一見すると年よりもずいぶん若く見えるし背も女性としてもずいぶん小柄で人懐こい。
おそらく満場一致で得られる皆からの感想は「小型犬」。

頭が良さそうには見えないのだが、仕事は完璧。重役にも現場にも好かれている。
私は融通が利かないともよく言われるのだが、幹部が私にふってにこにこ絡んでくるのでなぜか私の周りからの評価も生意気などとレッテルが着かない同僚への気配り。

いいなぁ、と思ってしまう。
堅すぎ融通効かなすぎ、と学生時代はずっと言われてきたし、それで良いと思っていた。不真面目で軟派よりよほど良い。まあそんな性格だから先生には好かれたがあまり同年代には好かれなかったなぁ、と思い出しながら。

そんな風に私は真面目一辺倒すぎてツンケンしていたのだが、会社に入って半年、この子には助けられたと素直に思う。
ミスをぱっとフォローしてくれたり、得意先に一緒に謝罪に行ったり、お昼一緒に食べようよと独りでご飯を食べることにならなかったり。

いつからか彼女に向ける笑顔は特別なのだと気づいた。

耳をくすぐる声とか。
後ろから抱きついてくる柔らかい体とか。
警戒心なさそうなまっすぐな視線とか。
仕事はできるくせに転んだり泣いたりちょっと子供っぽいところとか。
そういうのも全部。


「リコ!」
「はい?」
「これあげる!」


手に優しく乗せられた紙袋を開けてみれば、中にはチョコレート製品がたくさん詰まっていた。
チョコレート。
今は2月で、確かにその手の売り場が充実しているが、もしかしてこれは。


「最近リコ疲れてるみたいだからあげる!」


凄まじい笑顔で粉砕され、まあこの子にそんな概念はないかとため息をつきながらも、やはり少し嬉しくて頬をほころばせてしまった。甘いものなんて、あまり食べないし特に好きでもないけど。

女性からプレゼントをいただいたのなんて初めてだ。
甘いものは好きじゃないのに。
こんなに嬉しいプレゼントは――きっと後にも先にもこれだけだろう。

どきどき、そわそわ。

幹部から貰って胸に抱いた紙袋が暖かく感じて、既製品が詰められているだけなはずなのに食べてしまうのが勿体ないと本気で思った。

家に帰って、中身を広げてもう少し幸せをかみしめてからこのチョコレートを口にしようと決めた。
いつも帰宅するときは底冷えの風が体温を奪うはずなのに、今日は全身が暖かくて、代わりに胸がぎゅうぎゅう締められているようだった。



「……いただきます」



帰ってしばらく眺めてみて。
やはり食べるのが勿体ないなと深呼吸、唇を少しだけあけて、チョコレート菓子を口に入れれば、チョコレートは舌でとろけて。
じんわりと口の中に広がった甘みは、わたしがなんで好きじゃなかったのか解らないほど、おいしくて優しかった。

足の先を思わず身悶えさせてしまうほど、愛しい味だった。



*


3月。
ホワイトデー。
バレンタイン時期に頂いたのだから、ホワイトデーに返しても良いだろう。無論こんなのは、幹部がバレンタインを意識してくれたわけではないから私が勝手に意識しても単なる自己満足でしかないわけだが。



「幹部」
「なに?あっ、帰りご飯食べいく?」
「いえ、あの…目をつぶって、顔上げて口を開けてください」
「?」



どんぐり眼をぱちくりさせて、頬を綻ばせてから目を閉じて口を開いて上を向いた。
餌を待つ雛鳥のように。
毒を盛られるなんて疑いもしない白雪姫のように。

夢を語るように大きく開いたその口の中に、ほんの意趣返しのつもりでキャンディを落とした。


「っん!」
「…」
「飴だーっ!!甘い!」


頬を薄紅に染めて嬉しそうに破顔した姿に幸せになる。

ホワイトデーのキャンディは、「私もあなたが好きです」。
言葉で伝えられなかった甘い言葉は、代わりに彼女の口の中で甘くとろけたらしい。



(おいしいーっ)(それは良かった)(ありがと!うれしい!ご褒美?)(そうですね。いつも頑張っているご褒美です)(もっとがんばる!)((私ももっと頑張らないと))



(その小さな唇に、キスしたいと思ってしまった)


20130203.

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