※RTいただいたモデルボス×脚本家鮫第二段
触れた唇が思ったよりも柔らかかった。
その男に会ってひとつきほどになる。
脚本を練ろうと行きつけの珈琲屋に寄ったときに一目惚れしたものの逃げられた男が雑誌でモデルをしているのを発見して舞台に誘い、口説きに口説いているところだ。目立つ背丈はっきりとした顔立ち、どんな美女にも直せないような不機嫌そうに眉間に寄せられたしわ、声を聞けば頭や腰に響く重低音。舞台に立たせない手は無いそんな見た目。
会ったときにいきなり胸ぐらを掴んでくるような迫力のある男だが、その押しの強さも嫌いじゃ無い。ただ、この男前、XANXUSは口説いても口説いても落ちてくれない。
プライドは高いし身持ちも堅いしちょっとくらいぐらつけよとガード堅すぎだと思いながら今日も事務所へ通う日々。
というかこの男のことを考えながら脚本はすでに2本ほどできあがっているのだ。
この男以外で似合うはずが無いというか嫌だ!大人げない?言いたいやつに言わせとけ。とにかくこの男以外もはや眼中に入らない。
と、口説きが通じたのか「…わかった、脚本見せろ」と言ってきたのでよしきた!とばかりにバッグから脚本を取り出して渡す。悪いがここまで来たら落としたも同然だ。オレの脚本は最高だからなぁ!!
自負もしているし、実績もあるし無論以来だって掃いて捨てるほどある。
それがお前たったひとりの為だけに書いた脚本を、気に入らないなんていわせねぇ。
ぺらりとオレの渾身の作品を開いて、脚本家の名前に目を通したところですでに手が止まっている。
「…スペルビ・スクアーロ?」
「?ああ、オレの名だぁ」
「………本当に脚本家だったんだな」
嘘だろう、そこから疑われてたのかぁ!?
「お前が脚本と総演出の舞台、むかし何本か見たことがある」
「………」
…ごくり生唾を飲んだ。
良い感想を持ったのか、それとも。
昔の作品は、多少青臭さが残るものの世に出せるようなものを作り上げてきていた自信はある。総演出を務めて細部にもこだわった。しかし、もしその作品はこいつ一人の為に作ったわけじゃ無い。
もしもこいつの肌に合っていなかったら。
その前提で断られたらたまったもんじゃ無い。
普段ほぼ抱くことのない焦燥に刈られながら先を聞けば。
「悪くなかった」
「!!じゃあ!」
「そうだな、…請けてやっても良い。ただし」
「ただし?」
切られた言葉。
テーブルの向こうから乱暴な手が伸びてきてネクタイをひっつかまれて驚く暇も無い刹那。急速に視界がXANXUSで埋まり唇が触れあう。
何も考えられないような嫌に長い一瞬で離れた唇を思わず視線で追う。
こいつが目の前にいるのにこんなに頭が真っ白になった瞬間は無かった。理解した瞬間唇に残った感触が嫌で無かったことに気づいたが、なんだ、好きすぎて視界から外したくなかったこいつの顔が二度と見れないような気がするような気恥ずかしさに襲われた。
「…は?」
「ただし、報酬は体で払ってもらう」
「……」
「今のは前払い金として演てやる。お前の舞台にな」
とんでもない契約をしそうになっている気がするが、さっき触れた感触が思いの外気持ちよかったのと――キスひとつであの熱い衝動と夢が叶うなら悪くねぇかと思い直して、あげられない視線をなんとかローテーブルからあげてXANXUSの目を見て契約完了だな、と強がったが、顔が真っ赤だったせいか鼻で笑われてしまった。
強がりバンビーノ
(キスで終わるはず無いだろうが)
20130130.
ツイッタでRTいただいたやつ!!ありがとうございました!!