Ballerebbe ancora una volta ?
(もう一度踊ってくれないか?)
瞳の中で踊るその男を見たのは、いつもの何でも無い風景の一角だった。
舞台の脚本に詰まってとりあえず外に出るかとノートパソコンを抱えてなじみの店へ。
少し寂れているのは、コーヒー一杯で粘るオレのような腰を据える客が入り浸っているからで、やはり入ればなじみとは言わないがいつも見た顔の面々がそろっている。
その中に一人、見たことのない男がコーヒーを片手に新聞紙を眺めていた。
どこか切羽詰まって余裕のなさそうに見える、世知辛い世の中に追われた人間達の中に一人浮き世離れしているように見えた。
ただ暇だったから立ち寄ったのだろう場所で、完璧にそいつは風景から浮き出ていた。
漆黒の髪に、新聞を掴む手は男らしく大きく厚く何とも言えない色香にあふれていて、目はワインに血でも混ぜたような鮮やかな紅。
ぺらり、新聞をめくる姿すら名画家に描かれた作品のように完成されていて目が離せないような男だった。
あまり背筋に快楽と興奮が走ったからノートパソコンを落としそうになったがなんとか落とさずに持ちこたえ、その男の向かいに腰を下ろす。
他に席が空いているのに目の前に座ったオレにいぶかしげな目を向けて、新聞を折りたたんだので去るつもりかと思い思わず腕を掴む。
「………」
当然だが思い切り眉を寄せられ不審げな目を向けられた。
「ま、待てぇ!相席…いいかぁ?邪魔しねぇからよぉ」
「………」
男は数秒考えてからオレが掴んだ裾を振り払ってもう一度椅子に腰を落とした。
ついでに舌打ちするのを隠しもしない。
アンティークとか似合いそうだなぁ、あと強めの酒とかあおっても絵になりそうだ。
っつーかこんな綺麗な男見た事ねぇ…!!
一回オレの舞台に立って欲しいが、本当にこちらに目を向けずに新聞紙に視線を落とした男はかなり警戒心が強そうだしなぁ、と思っていたらいつもの、と言わなくとも出てくるコーヒーをテーブルにおかれてGrazie.と返事をする。
とっくり観察。
背ェ高いな。オレもそれなりに背はあるが、オレよりでかいし足長ぇ。顔立ちもはっきりしてるし悪役も二枚目ヒーロー役もできそうっつーか主役に置きてぇはっきり言って顔がもろタイプだ。
声はまだ一言も発してないが顔立ちから見るに良いバリトンボイスだろう。
ただ癖なのか偏頭痛持ちなのか眉間にものすごいしわが寄っているがそれもまたいい。凄みが出てる。
やべぇ一日見ていてぇ…ものすごいインスピレーション湧く顔してる。
脚本書いたらこいつが演ってくれねぇかなぁ、などと思いながら見ていればこっちに不愉快きわまりないと言わんばかりの目線で声が出される。
「気持ち悪い目で見るんじゃねぇよ」
うおおお声も滅茶苦茶好みだぁ!!!もう頭の中でこいつが歌って踊ってミュージカルまではじめる始末。ああ、柄の悪い格好がすげぇ似合うんだろうなぁそうだ次の主人公はダークヒーローにして悪い男にするか。この顔で極悪非道に人を殴って蹴って悪人する様はきっと板につくんだろうなぁそれを書き終えたら次の舞台は英雄伝説系のをやらせて、「シカトかテメェ」お?胸ぐら捕まれたぞぉそうだその顔だすげぇいいぜぇ引き込まれる!そのままそのままだぁ!いいぞぉどんどんネタが湧いてくる!!
「おい!」
「良し!決めた!!お前が次のヒーローだぁ!!」
「!!?」
胸ぐら捕まれて凄まれた男の逞しい両肩を掴んで立ち上がれば、今にも殴りかかりそうだった鋭い目つきに惑いの色が見える。
お構いなしに名刺を渡して交渉をはじめれば、男はそのまま逃げてしまった。追いかけて追いかけて家までついて行こうとしたら交番に寄られ「ストーカーだ」と突き出された。
ストーカーじゃねぇけどあいつを見失っちまうから放せと暴れたら次の日の昼まで留置された。どう言うことだぁ!?
*
そのまま別れてしまい名前も知らないあいつのことをぼんやり考えながら数日を棒に振ったところ、衣装のルッスーリアがいつものごとくねぇねぇこの子良い体してない?と見せてきた雑誌にまたかと思い生返事しながら受け流すつもりで受け取った写真には先日の男が半裸で載っておりリアルに鼻血を噴いてから倒れてルッスーリアに心配されながら鼻にティッシュを詰め、正式にそいつ、XANXUSの所属するモデル事務所にオファーを入れて無理矢理次の舞台に引きずり込み、来るたびにオレ専属になってくれと口説いている。
しかし美人は身持ちが堅いらしくなかなかなびいてくれないのだった。
Balla brevemente con me.
(今度はオレと踊ってくれ)
20140123.
ついったでRTいただいたやつ!
芸能界で素直になれないパロのはずが…??
渡季