江戸時代XS

さわさわ。

色づいた葉が散っていく。
もう冬ももうすぐそこだ。

肌を割くような寒さに、羽織の襟元を引き締める。スクアーロは癖なのか威嚇なのか、腰に掛けた本差の鯉口をかちんかちんと鳴らしながら歩いていた。脇差も傍らに備えてはいるが、そちらよりも本差の鯉口を切る方が好きらしい。
一本、頭の高い位置にきっちり結わいた銀髪を揺らしながら、今日も定例とばかりにある男のところに足を進めていた。
街の豪商の一人息子。これがとんでもない暴力沙汰を起こすわ悪さを起こすわ、本人すら恐ろしく強いし、さらに後ろ盾がついて誰も止められないと評判だ。そんな男の悪い背中を追って、というか隣に立って悪さをするのが幼少からのスクアーロの楽しみだった。
迷いのない悪への魅力と言うのは、なぜか剣一本気だった俺を引き付けた。

「ん、御曹司」
「…なんだ。カスか」

白い息を吐きながら、御曹司様の屋敷への途中、言ってしまうならばそいつの気に入りの甘味処でこしあんのたっぷりついた団子をかじっていた。唇の端に餡をつけていてなんだか笑えた。
隣に腰掛け、オレも団子を頼むついでに御曹司の口の端についた餡をペロリ舐めとれば、なるほど、確かに舌の肥えたこの男でも満足しそうな味だった。しっとりした漉し餡は甘すぎず、またきっちりとした裏ごしのおかげで舌触りがとても滑らかで粒がない。もっちりとした団子に絡めたらうまそうだと今から喉を鳴らす。

「…人通りのあるところですんな」
「人通りがなければいいのかぁ」
「は、人通りがなければ100倍にしてかえしてやるよ」

皿に詰まれた餡団子を、御曹司とは思えない仕草で口に運んでいた。むしぃっ、という表現が正しいような食いつきように思い切りがいいもんだ、と思ってオレは団子が来るまで御曹司に出されていた緑茶を口に運ぶ。

「お前は本当に…」
「ああ?」
「よく人の口着けたもんに口着けられんな」
「お前のなら気になんねぇからなぁ」
「なんだ、他の奴にはやってねぇのか?」
「他の奴じゃ気持ち悪くて口なんかつけられるかぁ」

御曹司の小袖から覗いた草履が愉快そうに地面を蹴った。

「どうしようもねえな」
「そうかぁ?」

日常に埋没していく。小さな愛か、友情か。単純な憧れかもしれない感情に、今。
素直になるとして。ともにいることが呼吸をするように自然なことで、話すことは何でもない事でも、一つ一つ天鵞絨のガラス玉のような美しさで。
ポケットにいつでも入れておきたいような、そんなもので。
死ぬまでこんなぬるい関係が続けられたらいいのかもな、とも思いながら、引き寄せてしまいたいような気もする。お前を引き寄せたら、何か変わるだろうか。お前を抜いたらすべてが変わってしまうのが分かっているのに、お前を引き寄せたら何が変わるのかが分からないまま随分と長い年月を過ごしている気がする。
そんな線を踏み越えるのは、いつのことか。まあ俺が――そう考えた時にはだいたい行動に移している時だ。

「そんなわけで、付き合わねぇかぁ?オレと」

迷うくらいなら、進もう。たとえどんな答えでも。オレが想っていられればいい。

「いいかもな」

想っていられれば、―――。そう思った答えは、案外行けるもので。

「お前が団子一つ寄越したらお前の男になってやるよ」
「どんな交換条件だぁ」
「安いもんだろ」
「まぁなぁ」

運ばれてきた団子を、御曹司の口元にやったらかぶりついて、にやりとこっちを見たのでオレも自分の団子を口に運んだ。


20131122.

RTありがとうございました!!
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