背面黒板一杯に日が反射して真っ赤に染まる。
いくばくかすれば闇に飲み込まれ沈むだろう太陽の最後のあがきは、とても華々しい。緩やかに首を絞めていくように、山の向こうに死にに行く太陽を見つめてはあいつが座った椅子に蹴りを入れた。
「何をする」
「何でいる」
そう、本来こいつはここにいなくてもいい。
日直でもなければ、日誌を書く必要性もない男がいる必要はないのだ。
そもそもこいつがまともに日誌なんかを書いているのを見たことがない。一人占めできるはずの景色をわざわざこの男とみることになったのはなんだか腹立たしかった。椅子をけって苛立ちを示しているのにもかかわらず、目の前のよくわからないのが売りの鈴木と言う男は苛立ちを意に介した様子もなく相変わらず椅子をぎいぎいと不愉快な音を立てて揺らし続けていた。
「お前がさっさと日誌を終わらせないから居るんだろう」
「頼んだ覚えはないが?さっさと帰ったらどうだ」
「相変わらずつれない男だな」
「つれてほしいのか?」
「ああ」
冗談のつもりで言った言葉に真顔で返され言葉が詰まった。
最後のあがきを続ける太陽が紅く鈴木の顔を照らした。黙っていれば女が寄ってこないこともないような顔をしているくせに、しゃべったら人が周りから一掃されるのは何がしかの特技かもしれない。
つれてほしい、そうもう一度念を押した鈴木の顔は真剣そのものだった。オレは舌打ちするしかなくなる。くだらない事を言うんじゃなかった。この男は以前オレの顔は美しいなんて男のくせにバカげたことを言ってからずっとこの調子だ。いい迷惑だった。
「他をあたるんだな」
「だからつれるまで追いかけようと思っている」
「…しつこい」
「美しい事と粘り強い事が私の特技だ」
「………」
「何度でもいおう」
「………ちっ」
さっさと帰ってくれないだろうか。そう思いながら、いつまでたっても終わらない日誌に視線を下ろしたら、夕焼けが沈んで一瞬闇に包まれた教室で、視線を落としたせいで無防備になったデコにキスをされた。
「!!」
「まだ終わらないのか」
何もしていないかのようにそのまま言葉をつづけた鈴木の顔は、暗がりで見えなかった。
20131015.