case.5


「中の状態は可能な限り当時の状態を再現してある」
リュウが団に、鍵のコピーが作れないか尋ねるが、団はそれを否定した。
そして第一のドアを開けると、続けて第二のドアを開けた。
「……嫌な予感がする」
紫苑がぽつりと呟くと、前を歩いていたリュウが不審げに紫苑を振り返る。紫苑はリュウと視線を合わせないように俯いたままで、第二の部屋に入ったメグの言葉によってリュウは紫苑に声をかけるタイミングを逸した。
「何か床に横たわってるわ……?」
ちょうど図面に、死体が書かれていた位置に、むしろをかぶせてあるものが一つ…キュウが懐中電灯で照らすと、誰かがむしろをはがした。

「きゃああああ〜〜〜っ!!」

メグの悲鳴が響く。
「さっ…三郎丸さん!!」
そこには、血まみれになった三郎丸の左半身が横たえられていた。
団でさえも息をのむ凄惨な光景にメグは顔を反らし、紫苑はぐっと唇をかみしめた。
まさか、本当に死人が出るなんて誰も予想しなかっただろう。――犯人以外は。
「切り裂きジャックだわ……! 団先生! 縦にまっぷたつにされた殺され方といい、これは五十数年前の切り裂きジャックの二重密室殺人とほとんど同じ状況ですわ!」
今まで一番元気のあったキュウも、さすがに本物の死体を前にして顔を青くしており、あまりにも想定外の事態に、団も唸った。
「お…同じなもんか! 昨日管理室からなくなったっていうこの倉庫のマザーキーはどうした!?」
あれを使えば密室じゃなくても殺人が可能だと郷田が主張する。
「ちょっとみんな!」
部屋の隅のある一点を見つめているキュウが、郷田を制止するようにその場の全員の注意をひいた。
「か…鍵…? これは…まさか!?」
団に渡された手袋をはめて、キュウは鍵を拾い上げた。特徴的な形をしたそれを見て、キュウは団をうかがった。団はキュウに頷くと、「開けてみてくれ」と言った。
どんなに控えめに見ても、これは間違いなくここの鍵だった。キュウがゆっくりと鍵穴にさして回すと、かちりと音がして回った。つまり、それが意味するのは――…。
「完全なる密室殺人」
リュウがはっきりとそう言った。
「テストのために再現しただけの密室殺人の現場が、本物の殺人現場になっちゃった、か…!」
紫苑はそのあとに続けるように、団にむかって言った。
先ほどまでは朝と同じ低いテンションでいたのが、今では紫苑とリュウのみが事件を冷静に検証していた。
「……片桐君…。真木君を呼んできてくれたまえ。監察医として遺体の検分を行ってもらう…」
「は、はい」
片桐が慌てて倉庫を後にする。
「メグ……大丈夫?」
キュウが心配そうにメグの顔を覗き込むと、メグがキュウの首に腕をまわして抱きついた。
「――大丈夫。いちいち殺人現場にめげてたら、探偵なんてなれっこないもん…!」
大丈夫よ、と自分に言い聞かせるメグに抱きつかれ、キュウは少し複雑そうな顔をしていた。
「…紫苑、大丈夫か?」
「うん…。これくらい、って言ったらだめだけど、平気」
リュウが横目にたずねると、紫苑は微笑みながら答えた。昨日の出来事から紫苑を心配していたリュウだが、どうやらもう大丈夫そうだと思い、息をついた。



昨日今日と説明があった部屋で、話し合いをしに出て行った教師の帰りを待ちながら、受験生は一様に不安を抱えているようだった。――紫苑とリュウをのぞいて。
「あたしのもってる瞬間記憶能力って一度見たものは絶対に忘れない…っていうか、目に焼き付いて忘れたくても忘れられないの。さっきみたいな悲惨な光景も……」
キュウやキンタと会話していたメグの言葉に、二人は顔を青くした。会話に参加していなかったメンバーも、その言葉でさきほどの光景を思い出したのか青ざめている。
と、キンタがパソコンをいじっているカズマに声をかけた。カズマは安直なキンタの発言をバカにするように、自分がいま何をしているのか、簡単に説明する。ようは過去の事件の検索ソフトのようなもので、便利には便利だがよほどの観察力と洞察力がなければ、正確に類似した事件を発見できない。それに気付いていないのは、やはり小学生だからなのか、自分に自信があるのか…と、紫苑は呆れる。
しかし他の受験者たちは、その結果に興味しんしんで、カズマはのぞきこむのを阻止するようにパソコンを閉じる。
「あっ!」
「カンニングはダメだよ!」
「え〜。なんだよ〜、見せてくれんじゃないのか!」
「君は何か勘違いしてないか? カズマ君」
不平を口にするキンタや白峰の言葉を遮るように、リュウが口を開く。
「天草君……。勘違い? 何がさっ!」
カズマはむっとしたようにリュウに問い返す。よほどその、ディデクティブソフトというものに自信を持っているようだ。
「――これはもう、試験でもなければ君の好きなゲームでもない…本当の殺人事件なんだ」
「そ…そんなことわかって…」
「いや、わかってない。君だけじゃなく、ここにいるほとんどがこの状況が見えてない」
カズマの反論を、冷静に、しかしはっきりと否定する。同時に、この場にいる全員に言いふくめるようにゆっくりと口を開く。
「朝、真木先生がクルーザーで戻ってきた時とは比較にならない荒れようだ……こんな状態で船が出せると思うか?」
風と雨が吹き荒れる窓の外を見ながら、リュウがどこか楽しげにきく。
「まず、無理だね」
紫苑が会話に加わると、今度はそちらに視線が集中する。
「そう――僕らはこの島から当分の間出られない――正体不明の殺人鬼・切り裂きジャックのいる、この島からね! …そして殺された三郎丸さんはこの学園の受験生…! 次に殺されるのは、」
「同じ受験生の誰かかもしれない? 三郎丸さんと同じように切り裂かれて…」
紫苑がリュウの言葉をひったくると、リュウは特に異論はないようで頷いた。紫苑はリュウのあとに続けながら、自分とリュウの思考回路がいかに似通っているか、まざまざと感じさせられていた。





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