case.24


「たしかに、万が一右近さんが犯人だったら、キンタはおめおめ殺人者を逃したことになるね」
「そう――。また次の殺人が起こりかねないこの状況では、取り返しのつかない事態を招く可能性もある!」
キンタに胸倉をつかまれたまま、あくまで冷静にリュウが紫苑に続ける。紫苑はリュウの言葉を聞きながら何かを考え込んでいた。
「ちょ…ちょっと待って! 次の殺人が起こりかねないってどういう意味?」
焦ったように訊ねるすみれに、リュウが事も無げに答える。
「数年前、月幽霊の絵になぞらえるかのように三姉妹の母親の葉月さんが亡くなり――そして花幽霊の絵に見立てられて、蒔さんが殺された。あと一枚――雪幽霊の絵が残っている。ということは、」
「幽霊画の見立て殺人も、あと一回は起こる可能性がある、と?」
何度目の先回りか、紫苑がリュウの言葉を奪う。有無を言わせぬ勢いが、リュウに言わせたくないように思える。
紫苑の言葉に、その場がしんとする。
「……やっぱ、もっと積極的に霧雨右近犯人説で事件を調べてみた方がいいと思うよ?」
これ以上事件を起こさせないためにもさ、とカズマが言うと、キンタは気まずそうに黙りこくった。
「キュウ! 君はどう思う?」
「えっ? オレ!?」
突然話題を振られたキュウが、うーんと唸る。
「なんとも言えないかな〜。確かに右近さんって人はどっかつかめない人だし――…事件のヒントも何一つつかめてないし……。でも…オレも、右近さんは犯人じゃない気がするよ!」
「え?」
「……その理由は?」
「キンタの野生のカン…かな?」
照れたように頭をかくキュウに、キンタ自身も唖然とする。昔から右近を知っているキンタが覚悟を持ってしていくのだから、きっとそうだろうと。キンタの直感を信じると、キュウはきっぱり言い切った。
「わかった。じゃあここからは、二手に分かれて調査をしよう! 僕とカズマは、とりあえず右近さんを重要な容疑者と仮定して推理を組み立てる――」
「じゃあ、オレとキンタはその逆だ! 右近さんは犯人じゃないと証明するために犯人とトリックを暴いてみせる!」
「――紫苑、メグ、君たちは?」
リュウが残っている二人に声をかけた。
「え? あ、あたし…? あたしは…どっちにもつかないでいようと思う。だって…こんなことでQクラスがぶつかりあってちゃ、犯人の思うツボな気がするもの。だからあたしは、心を真っ白にしてどっちの意見も聞きながらあたしなりに考えてみようと思うの」
メグが寂しそうに言うと、キュウも同じような顔をした。
「………紫苑は?」
「…私も、メグと同じ中立でいる。右近さんはすごく気になるけど、私が気になってるのはそこじゃない気がするんだ」
「そうか。…いいだろう。いつも仲良く6人揃ってるだけが能じゃない!」
リュウは紫苑の言葉を聞くと、少し意外そうに目を細めたがすぐにくるりと背を向けて障子に手をかけた。
「本当は僕たちだって、名探偵・団守彦の後継者を争うライバル同士なんだからね!」
行こう、とカズマを呼ぶと、リュウはそのまま足早に去って行った。何かにせっつかれるように、珍しく落ち着きのない様子で。
すぐにキュウとキンタも部屋を後にし、メグ、紫苑、すみれの三人だけが残された。
「いいの、メグちゃん、紫苑ちゃん? なんか、仲間割れっぽくなってきちゃったけど…」
すみれが心配そうに訊ねる。
「大丈夫じゃないですよ。…リュウ、どうしたんだろう」
紫苑が静かに首を傾けた。
「うん…。やっぱり変だよね。九頭龍匠が絡んでくると、いつもの冷静なリュウ君じゃなくなる気がする…。あたしはキュウとリュウ君、紫苑の三人が波長を合わせてお互いの足りない部分を補い合った時に、どんな難事件もあっという間に解決するのを見てきた。そのコンビがこんなふうにバラバラになっちゃって…」
眉を寄せて、「やな予感がする」と呟いた。紫苑は予感が的中して、深くため息をついてキュウたちの出て行った障子を見つめていた。





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