case.23


「だ、だめだ…死んでる…!」

医師の判断に、節子が「花幽霊の呪いだわ」という。蒔の死体の周りに散らばる花は、花幽霊の絵に描かれているものと同じだという。
誰も節子の言葉を否定しなかったが、リュウと紫苑だけは、一瞬驚いたものの、すぐに冷静さを取り戻し、ある確信を得た。



すぐに警察がかけつけてきた。
蒔の死体を回収すると、右近に事情聴取していた。
「では…遺体発見当時、こちらの鉄板入りの扉は閉まっていて、カギもかかっていたと…そういうわけですな? カギの管理はどなたが?」
「僕と父です」
「お父さん? しかし、お父さんは寝たきりで食事も自分で摂れない状態だと伺っておりますが…」
「はあ…、そうです」
「――ということは、事実上カギを自由に使えるのはあなたひとり――」
「はあ…。そうなりますねー」
「ゴホン! お姉さんが亡くなられてお気の毒ですが…右近さん。この状況ですと、あなたに署の方で詳しいお話をお伺いすることになりますね!」
キッと刑事が右近に告げると、
「え〜! なぜですか?」
右近は、さっぱりわからないというように訊ねた。一瞬、場が静まりかえる。
「現場の広間のカギは簡単にコピーできない特殊なカギで、マスターキーを持ってるお父さんは寝たきりで動けない上に合鍵を持ってるのは右近さん! あんただけなんだ!! はっきり言わせてもらうとね! あんたしか現場に出入りできなかったわけだから自殺でなきゃ犯人はあんたってことになっちゃうんだよ!」
「自殺でなければ、犯人は僕…?」
ええ〜! と右近が刑事の言葉を否定する。しかし刑事は有無を言わさずに右近を連れていこうとする。
「う…右近!」
「ちょっと待った! 待ってくれ刑事さん!」
「金さん…!」
突然、キンタが刑事と右近の間に入り込む。
「なんだね? 君は!?」
「……俺は、」
「っキンタ…?!」
キンタの一瞬考えるような間に紫苑は嫌な予感がして、とっさにキンタに声をかけるが、それよりもはやくキンタが手帳を取り出した。
「こういうもんです!!」
「キンタ!! ちょ、ちょっと!」
「あっちゃ〜やっちゃった…!」
「馬鹿……」
もちろん警察はいったん引き下がった。当然納得したようではなかったが。
「ちょっと! キンタ!! 今のは――」
「なあ! みんな、これ見てくれよ!」
「きゅ、キュウ!?」
キンタを叱ろうとするメグはキュウに遮られ、突然声をかけてきたキュウに驚いた。
「見てくれよ! この紫陽花…花幽霊の絵に描かれてるやつとなんか違くない?」
「あ…本当だ、萼がない。ただの紫陽花じゃん」
キュウの言葉に紫陽花をよく観察すると、紫苑の言ったように装飾花がなかった。
「ね? こっちの桔梗と山百合はちゃんと絵と同じなのに…紫陽花だけ違うなんて、なんか気にならない?」
「すみれさん! たしかこの萼紫陽花はこの家の隣の植物園に咲いてると言ってましたね?」
「ええ! 咲いてるわ」
「ここにある普通の紫陽花は?」
「これも村にはあるけど…ここから採りに行くとなると、5〜6分は歩くかな?」
鋭く質問するリュウにすみれが答えると、キュウは確信を持って呟いた。
「だったらなおのこと変だよ! すぐ隣に咲いてる萼紫陽花じゃなくて、5〜6分も離れたところにあるこの紫陽花をわざわざ見立て殺人に使うなんて――」
紫苑たちはキュウの言葉に考えてみたが、現段階では憶測を立てることすらできなかった。



「やっぱ…さっきのキンタのやり方は、団先生に大目玉食らうよ? 絶対!!」
「警察も全然納得してないって感じだったし――」
「カギの件といい、右近さんにはやっぱり警察に行ってきちんと事情聴取してもらった方がいいんじゃん?」
「……俺は、ただ――」
屋敷に戻ってきて、キュウたちはキンタの態度について話し合っていた。
キンタは弁解しようと口を開きかけるが、リュウの言葉に遮られる。
「僕も、カズマの見解と同じだ――」
「リュウ…!!」
「君ひとりの判断でDDS手帳を出したり右近さんの身柄を拘束しないように勝手に指示を出したり、君は殺人容疑をかけられているのが幼なじみだということで冷静さを欠いているんじゃないのか?」
「――じゃあ、右近が犯人だって証拠でもあんのか?」
「それを断定する証拠はない――しかし、否定する証拠もない。そして殺人現場に出入りできるカギを持っていた人間はたった二人! ひとりは身動き一つできない右近さんの父親、霧雨左門氏。…残るひとりはほかならぬ右近さんだ…!」
ガッとキンタがリュウの胸倉をつかむ。
「き…キンタ!!」
「だから、それが罠くせーってんだよ!! 犯人が自分しか出入りできねえってわかってる場所にわざわざ死体ほっぽってカギかけて、自分がやりましたと言わんばかりに現場を仕立てるなんてやるか? フツー!」
「そんなのよっぽどの馬鹿か、あるいは――」
まくしたてるキンタに、相変わらず冷静に返すリュウ。
「あるいは――馬鹿を装った天才か…」
「紫苑!?」
リュウは少しだけ、自分の言葉をとられて驚いたような表情をしていたが、すぐに肯定した。
「ああ。――霧雨右近は、僕や紫苑の目が正しければまちがいなく並外れた頭脳の持ち主だ。それがなぜ、あんなふうに間の抜けた行動をとり、人目を欺こうとしているのか? それが僕や紫苑が…いや、僕が彼に疑念を抱く一番の理由なんだ!」
リュウの言葉に、キンタは口をつぐんだ。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -