case.17 |
メグが呼びとめる間もなく、すみれは闇の中に姿を消してしまった。 「…ねえ紫苑、どういうことかな…?」 「………」 「紫苑…?」 「…え? ごめん、何?」 「あ…ううん。ごめんね、何でもない」 自分以上に怖がっている紫苑を見て、メグは初めて見る紫苑の姿に戸惑いながらも、とにかく今は肝試しが終わるのを待とうと決めた。 「紫苑、もう終わるよ」 「ああ、そう…」 ぎゅっと両手で肩を抱きしめる紫苑を心配しながら、メグは今まさに通り過ぎたキュウを見てほっと安堵した。 「どうだ? もうビビりなんて言わせねえぞ!」 「よかったじゃないか、キンタ。何も起きなくて!」 威張るキンタに、無意識のうちに皮肉を言うリュウ。 「つか、紫苑顔真っ青じゃねえか」 「大丈夫か?」 「う…うん、平気」 とてもそうは見えないけれど――とリュウが眉を寄せると、キュウが気づいたようにあたりをきょろきょろと見回した。 「あれ…? すみれさんは?」 「ああ…なんか前に幽霊が出たときと同じパターンだから怖くなったって…先に帰っちゃった」 「ちぇっ! なんでいすみれのヤツ!」 「同じパターンってどういう意味?」 呆れるキンタをスルーして、リュウがメグに尋ねる。 「さあ…たぶん、あたしが最初にイチ抜けしちゃって、残り四人でやるってことじゃないかな? でも…変なこと言ってたのよね。あたしが抜けて四人になったら一周で終わっちゃうはずだから、とかって……」 メグの言葉に、リュウとカズマがはっとする。 「メグ…君は抜けてたのか?」 「…うん。ごめん。やっぱりお寺の真っ暗な廊下をひとりで歩くのはさすがに…」 「…本当か、紫苑?」 「ん、ほんと。…嘘ついてもいいことないよ」 メグと紫苑に確認をとると、リュウは黙り込んでしまった。カズマが「本物が出たの…!?」と騒いでいて、四人は何のことかわからずに首を傾げている。 「わからないのか? 紫苑も気付かなかったのか?」 「う…ご、ごめん」 しょんぼりとする紫苑に苦笑すると、リュウは「ありえないんだよ!!」と言い切った。 あのあと、そのままいても気味が悪いということでキンタの屋敷に戻ってきた。 「どういうこった? さっきの肝試しがありえないってよ…?」 キンタが二人に質問すると、説明しようとするリュウをさえぎって、カズマがある怪談を語りだした。 「昔――冬山で五人の山岳部員が吹雪にまかれて道を見失ったんだって。そのうちひとりは落石で頭を砕かれて死んじゃって――…。残る四人で死体を背負って必死で寒さをしのぐ場所を探しまわったそうなんだ。 それで山小屋を見つけたんだけど、山小屋は無人で電気も暖房もなく、真っ暗闇でお互いの顔すらわからない中、今度は寒さと疲労で襲ってくる眠気と戦うはめになった。眠らないために一人が提案したんだ。全員が四隅に座って、立ちあがって隅にいる人のところに行って肩を叩いて起こす。それを繰り返してぐるぐる回れば、自分の番が回ってくるまで数分は眠れるし、起きたら今度は次の人に繋ぐっていう義務感で立ち上がれる。朝までそうすれば助かるかもしれない、ってね。 四人の部員たちは、遭難者の遺体を部屋の真ん中に置いて四隅に座った。そして何も見えない山小屋の中で肩を叩き合い、なんとか吹雪が止む夜明けまで頑張り通して、無事に彼らは下山したんだ。 ところが…その中の一人が気づいちゃったんだよ! この肩叩きリレーの不自然さにね…!!」 カズマの話が終わると、メグがあ! と顔をあげた。 「それって、確かにありえないわ!!」 「は?」 「な…なんで?」 「だって…四人が隅にいて、ぐるぐる回って肩をたたき合ってるだけだろ?」 それのどこが変なんだとキンタが言うと、カズマが想像してみてよ…と説明し始める。 「山小屋の四隅にそれぞれひとりずつ。真ん中には仲間の遺体…。山小屋の中はすぐ隣の人の顔も見えないほど真っ暗だ――! まず一人目が壁づたいに移動して、二人目の肩を叩く。叩かれた二人目は立ち上がり、そこに一人目が入れ替わりに座る。そして二人目はそのまま壁づたいに三人目のところへ行き…肩を叩く。同じように三人目は立ち上がり、今度は四人目の肩を叩きに行く。 さて…ここで問題です! 四人目はいったい誰の肩を叩くでしょう?」 「あ? そんなの簡単だろ! 四人しかいねーんだからぐるっと回って……え?」 自信ありげに答えかけたキンタが言葉に詰まる。さすがにキュウも気付いたようで、遅ればせながら紫苑気付く。 「誰も…いない…?」 「そう!」 カズマが青ざめて頷く。 「にもかかわらず、四人目は誰かの肩を叩き、その誰かはまた一人目の肩を叩き、それは夜明けまで続いた――。この話のオチは、真ん中で死んでる人が誰かとなって肩叩きリレーの穴を埋めて仲間を助けた…ってことになってるんだけど、これと同じことがあの暗闇寺の蝋燭リレーの肝試しで起こったんだ…!! 本来ならメグが抜けて誰もいないはずの角で――四人目のキンタは誰かに蝋燭を渡して、その誰かはキュウに蝋燭を渡してたんだよ!」 「じゃ…じゃあ、俺が蝋燭を渡したあの手はまさか……!」 キンタが今更ながら青ざめ、紫苑はリュウに寄り添う。 「そう。幽霊の手だった…」 声とともに、突然襖が開いた。 |