case.16


「強化合宿?」

今からは間に合わないよ、とメグ。それに対してまかせてと豪語するカズマ。そしてそれを遮るように――
「合宿所なら俺に任せな!!」
どんと胸を張るキンタ。
クラス入れ替え試験を間近に控えた5連休、推理合宿にむかうAクラスと会い、Qクラスでも合宿をしようとキュウが意気込んだのがそもそものはじまりだった。
「キンタのね…まあ、いいんじゃない?」
やるなら、面白い方がいい。それも、とびっきりに。そう思った紫苑は素直に頷いた。
明日の朝イチで行こう! とやる気満々のキュウに、メグとリュウが同意し、紫苑もそれがいいね、と相槌を打つ。カズマ一人は妙に落ち着かないようだったが、結局は頷いた。



「のっけからこんな山道歩かされるなんてぇ〜」
「どう…かん……。予想以上に…キツイ…」
小学生のカズマはともかく、まさか尾行を得意とする自分までこんなことになるとは…と、紫苑は自分に呆れてため息をついた。
「この軟弱者が! もうちょっとで着くからガマンしろや!」
キンタが呆れたように吐き捨てると、リュウが紫苑の荷物を片手にキンタの慣れた様子に驚いたように声をかけた。
「それにしてもキンタは、だいぶこのあたりに馴れてるみたいだな」
「あったりめーだ! ガキん頃はこのあたりを遊び場にして山から山へ飛びまわってたかんな!」
「そういえばキンタはナントカ流ナントカ術の免許皆伝だとか言ってたよね!」
「遠山流隠密術でしょ? それって忍者みたいなもの?」
キュウの言葉にメグが補てんして尋ねる。
「まあ、そんなトコかな…」
というキンタに、キュウはそんなのきいたことないけどなあ、とこぼし、キンタに忍者が堂々と名乗るわけないと叱責されていた。
「でも…そういや、遠山の金さんのやってることって…隠密のやり方そのものだよね?」
ぜーぜーと息を切らしながらも、カズマが会話に参加する。会話にすら参加できない紫苑を見て苦笑しながら、リュウがなるほど、と手を叩く。
「確かに、かの遠山金四郎が実は幕府の隠密で正体を隠して忍者のように町人の中に入り込んで…犯罪者や幕府に対する不穏分子を取り締まっていた、というのは面白い説だね!」
「面白いもクソも、御先祖さまはまさにそのクチだったんだよ!
 だから代々、遠山家に生まれた男子はガキん頃はこの山奥にある古くからの家臣――…近松家のからくり屋敷に預けられて武者修行をやらされるんだ!」
「男子は…? じゃあ、…女子…が、生まれたら、どうなるんだ…?」
あまりにもか細い声で尋ねたためか、キュウの言葉に打ち消されて紫苑の疑問はキンタまで届くことはなかった。
「無理するな」
リュウにぽんぽん、と頭をなでられて、紫苑は再びため息をついた。
「――なんだか、嫌な予感がするんだ」
「嫌な予感…?」
紫苑の言葉にリュウが振り返ると同時、キンタが「見えてきたぞ!」とみんなを呼び寄せた。



これまでの事件の推理や授業の復習、お互いの考えた問題と推理の披露などを、リュウがリーダーを務めながら話し合った。
ひのきの風呂に入り覗こうとするキンタとキュウにむかって、キンタの幼馴染のすみれが手裏剣を投げたり、花火を両手に持って暴れたり…夏らしい合宿の一日目が終わろうとしていた。
「あ〜あ…最後の花火もこれで終わっちゃった。まだ寝るには早いし…どうしよ?」
すみれが花火の後始末をしながらみんなに尋ねる。正直紫苑はもう寝たかったのだが、たしかにみんなといる時間が短くなるのは惜しい。
「じゃあ肝試しは?」
「肝試し〜!?」
キュウの提案に一度は騒然となるものの、やはり気になるのか一同はすみれに案内されて歩きだした。



「これは五人でやる肝試しなんだけど…」
すみれがちらっと見まわす。
「あ、私、暗いのとか苦手だから、パスしていいかな?」
紫苑がそろりと手をあげると、キンタ達は馬鹿にしたように笑ったが、メグとリュウは心配したように頷いた。
「そう。じゃあ紫苑ちゃん以外の五人ね。
 それでやり方だけど、まず、この一辺が30メートルくらいある暗闇寺の回廊の階段と4つの角のところにそれぞれ待機するの。スタートはこの階段の人からよ! まず蝋燭を持ったひとりが、ここからそこの角を曲がったところに控えてる人にこの蝋燭を渡すの。この人は受け取ったら次の人の待っている角に向かって歩き出す。そして蝋燭を渡した最初の人は44数えたらこの角の手前から次の人が待ってたこっち側に移動して――ぐるっと蝋燭がリレーされてくるのを待つの。そして蝋燭を持って歩いて行った人は次の角までたどり着いたら角の向こうを覗かず、蝋燭をその次の人に渡す。こうやって最初に蝋燭を受け取った人がまたこの同じ位置まで戻ってくるまで、蝋燭リレーを続けるってわけ」
「じゃ、さっさと位置に着こうぜ」
そう言ってキンタが寺の中に入っていく。続けてキュウ、カズマ、リュウが中に消えていく。
「…まいったなあ」
メグがため息をつくと、蝋燭を手渡しながらすみれがそういえば、と話しだした。
「三年前ね、地元の若い子たちが集まって、同じようにここで肝試しやったのよ。ずーっと昔から続いてた伝統行事みたいなもんだからね! ところがあたしと、あたしの同級生三人――それにもうひとりアイツが加わって肝試しが始まった時のことだったわ…」
「キャ―! もういいです! きいたら行けなくなっちゃう!!」
メグが慌てて耳をふさぐ。
「そうね! …ってあら、紫苑ちゃん?」
「お、おかまいなく」
顔をそむけて震えている紫苑と、不安そうな表情のメグを見てすみれはくすりと笑い、メグを見送った。
少ししてメグが戻ってきた。
「あら…? 行かないの?」
「すいません…! やっぱり無理みたい。ここで待ってていいですか?」
「仕方無いよ。私なんか最初から入る気無かったし」
メグの弱気な言葉を紫苑が肯定すると、すみれはくるりと背を向けた。
「あたし…ちょっと家に戻るわ」
「えっ? 私たちだけで待つんですか?」
歩きだしてしまったすみれの背に、紫苑が慌てたように声をかける。
「ちょっと本気で怖くなってきちゃったのよ。だって三年前、ホントに幽霊が出たときと同じパターンなんだもん――! 心配しないで。あなたが抜けたらこの肝試し、最後までできないで一周で終了になっちゃうはずだから――…」
幽霊さえ出てこなければ…で、と言い残してすみれは立ち去ってしまった。





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