case.15.5


「疲れたー…」
疲労感にあふれた声で、帰宅した紫苑の第一声がそれだった。
部屋に入った途端荷物を床に落とし、ベッドに転がりこんだ。
移動のフェリーでは眠るほどの時間もなかったし、試験会場の宿泊先ではあまり心を落ち着けて休めなかった。むしろつねに肩肘張った状態で、殺人犯が誰か疑い、猛威をふるう嵐に怯えていた。
とはいえ、なんとか無事試験を合格し、キュウやリュウたちとも仲良くなることができた。まだ色々と知らないことも多いし不安なこともある。特にリュウは、何か気付いているようで、自然と避ける結果になってしまった。
ふと、リュウにメモ用紙を貰ったことを思い出して起き上がる。
「えっと、ここにしまったはず――」
ごそごそと鞄の中を探ると、紙が一枚出てきた。
紫苑はそれを持ったまま再びベッドに転がりこんだ。
「天草流……。住所は書いてないんだ。なんでだろう…?」
電話番号を何度も見て覚えてしまうと、紙をベッドサイドのテーブルの引き出しにしまった。
「まあいいか。とりあえず、風呂、入りたいな」
ふらりと立ち上がると、紫苑は部屋を出ていった。



広い湯船に手足を伸ばし、くったりと横になる。
まとめあげた髪も濡れそうなほど身を沈める。温かいお湯が肌に心地よい。
「……やっぱり、ばれたのかな」
そっと、リュウがふれようとした頬に手を添えると、その手をぐっと伸ばした。無数の切り傷や火傷の痕が残っている。
そしてその手をおろし、左下腹部に触れた。
とりわけ傷あとが残っているそこには、縫った痕さえある傷とは比べ物にならないほどはっきりと刻みつけられている焼き印があった。
紫苑はぐっと爪を立てると、出血する前に爪を離した。
「どうして…どうして、消せないの…っ」
ぱしゃん、と顔を伏せると、紫苑は静かに声を殺して泣いていた。





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