case.12 |
郷田の死体を発見した西棟の下で風に吹かれながら、紫苑たちは先ほどの状況を思い出していた。 「――あの時、僕らはここに立って明かりのついている窓を見上げた…! すると半開きの窓から血まみれの手がのぞいてて…僕らは手が引っ込んだのを見て、誰かがまだ部屋にいると判断し、全員でその部屋に向かった――」 「それでここの…エレベーターホールに集合した後、団先生に言われて私とメグはここに残って、他のみんなが部屋に向かった」 「そう……」 できるだけ当時の状況を再現しながら、その場にいなかったメグと紫苑に説明するように話しながら階段を上っていく。 「あの部屋だね……」 点々と続く血の足跡に、メグが悲鳴をあげる。 「現場の部屋は鍵がかかってる――…まっ、当然か」 足跡の続く部屋のドアノブを握るが、びくともしない。念のために隣の部屋も調べてみるが、やはり開かない。 「仕方ない…! できる限り僕らが見た現場の状況を思い出して再現してみよう。キュウ! 君も手伝ってくれ」 「うん!」 すっとリュウが手帳を取り出し、中のスペースに書きつけていく。キュウにあってるか確認すると、メグと紫苑にそれを見せる。 「うーん…こーゆー時瞬間記憶能力者のメグが現場を見てたらもっと完璧に再現できるのに――」 リュウの書いた図を見ながら、キュウが唸った。 「なるほど…そういうことか…!」 キュウの言葉を遮って、リュウが呟いた。今回ばかりは紫苑も蚊帳の外で、リュウの言葉の続きを待っている。 「メグ! ひとつ思い出してほしいことがある」 「な…なあに?」 「明かりのついた窓を下から見た時の状況――周囲の人物配置も含めたすべてだ…思いだしたらそれをここに書いてくれ!」 手帳の別のページを開いて、シャーペンと一緒にメグに渡す。メグはさらさらと書きつけていくと、リュウに返した。 「これでいい?」 「ありがとうメグ――…」 メグからうけとって一瞥すると、リュウはやはりな、と言って小さく微笑んだ。そしてリュウの表情に、キュウははっとしてやっぱり…と顔をあげた。 「アリバイは、完全に崩れたね…!」 リュウがきっぱりと告げると、紫苑もまさか、と顔色を変えた。 「きゃっ! ネズミ!!」 キュウが不満そうな顔をしていると、メグが足もとのネズミに驚いて悲鳴をあげた。紫苑がくすりと笑って、メグを落ち着かせるように言いふくめる。 「大丈夫。人間のことは噛まないよ。ネズミだって人間のことを怖がっているんだから」 「そうか! そんなことあるわけないじゃん!」 「キュウ?」 紫苑の言葉で何か閃いたように、キュウが呟いた。 「メグ! 正確に思い出してほしいことがあるんだ。君が太鼓判押してくれたら確信できる!」 メグは随分引っ張りだこだ、と紫苑は半ば感心しながらキュウの確認したいことをきき、キュウの言わんとしていることを理解した。 先ほどの部屋に集合してお互いの発見した情報や、新たな推測を交換することで、推理はますます深まり、確実性を増した。 「ヒントは5つ!!」 キュウが掌を広げる。 「不自然な足跡――…郷田さんの死体が発見されるまでの状況――落ちてたハンカチ…切り裂かれた三枚の肖像画、そして切り裂かれた三郎丸さん」 そして指を折ると人差し指だけをたてて、「答えはひとつだ!」と言い放った。 「団先生! 失礼します――…」 「入りたまえ!」 キュウ、リュウ、メグが団や教職員を呼びに行っている間に、紫苑は残った受験生たちを呼びに行った。全員をセミナールームに集めると、不満そうな桜子や慌てた様子の白峰、意外そうな片桐と真木が席についた。 「彼らの話を聞かせてもらおうではないか! どうやらこの様子では、切り裂きジャック事件の真相をつかんだようだ」 そうだろう、と尋ねる団に、キュウは胸を張ってにっこりと笑って頷いた。 「なっ…なんだって!!」 当然、集められた者たちは各々驚いた反応をとった。キュウは満足げにそれを見ると、「この場ですべて明らかにしてみせますよ!」と言い放ち、言葉を続けた。 「事件の真相――、そして切り裂きジャックの正体もね!」 「よかろう! 聞かせてもらおうではないか! 君たちの推理を…!」 団がそう言って許可すると、キュウはメグを振り返った。メグは緊張した面持ちで頷くと、一歩踏み出した。 「まず以前も言いましたが、この事件は外部からの侵入者の仕業ではなくあたしたちの中にいるある人物が起こしたものだということを改めて確認しておきます。荒された調理場から食料がまったく持ち出されていなかったことからもそれは明らかです」 「犯人が調理場を荒らした理由は二つあります。ひとつはもちろん、この孤島に飢えた殺人鬼が潜んでいると思わせるための心理工作――。そしてもうひとつは、例の二重密室トリックに用いた小麦粉ボールを作った形跡をごまかすためです」 メグとバトンタッチしたリュウがそこまで説明すると、片桐がメグに意見した。 「でも犯人がこの中にいるというのはどうかしら?」 「なぜですか? 片桐先生!」 「だって三人目の郷田君が殺された時――部屋に閉じこもっていた雪平さん以外みんな、建物の下に揃っていたのよ! にもかかわらず窓から突き出てた腕が――何者かによって部屋の中から引き込まれたのをあなたも見たでしょう?」 冷静に分析する片桐に動じることなく、メグは確かにその通りだと肯定した。そしてまた、リュウと、今度は紫苑にバトンタッチした。 「それではまず、今片桐先生がおっしゃった郷田事件の際のアリバイトリックから解明したいと思います」 |