case.11


「郷田さんが……!?」
「ああ。やはり肖像画の通りに…」
言葉を濁したリュウを見て、紫苑は顔をしかめた。
紫苑とメグを待機させて西棟の中へ入って行った一行だが、明かりのついていた部屋には無残に切り裂かれた郷田の死体があったのだという。予想通りというか、犯人の姿はなかった。
宿泊施設の方に戻ってからも、みんなの気分は重いままだった。
「…ほんとに、どうなっちゃうんだろ……? ま……まさか…みんな……ああなっちゃうのかな………」
カズマの呟いた言葉が、重く廊下に響いた。さすがのリュウやキュウでさえ、口をきけずにいると、紫苑がおもむろにスカートのポケットから何かを取り出して見つめていた。そしてそれを見たキュウが、すぐに自分もポケットから同じものを取り出してじっと見つめる。
「…オレ…今まで次々に目の前で起こる事件の恐ろしさに負けてたよ」
「キュウ…」
ぐっと掌を強く握ったキュウの名前をリュウが呼ぶ。
「口じゃあ謎を解くとか言ってたけど…どっか自身なくって…だから、せっかくもらったこのDDSバッジもつけることができなくて、なんとなくポケットにしまったままだった……でも――」
きらりと輝くそれを、上着の襟にとめる。
「オレは絶対あきらめない! 必ずこの事件の謎を解いてみせる…探偵があきらめたら、事件は迷宮入りなんだ!」
キュウの言葉に、抱いていた恐怖心が徐々に薄れていくのを感じながら、紫苑はキュウにならってバッジをつけた。
「迷子にはなりたくないからね」
「確かに…ここまできて迷宮入りはゴメンだな」
紫苑に続いてリュウが。
「へっ…! 俺だってここで退いてちゃご先祖様に申し開きできねーぜ!」
リュウに続いてキンタが。
「そうね! あたしも!!」
キンタに続いてメグが。そしてメグに続いてカズマが。
「みんな…! よぉーし! 必ず切り裂きジャックの正体をつかんでやるぞ!」
キュウが調子づいて手を差し出すと、その上にどんどん手が重なっていく。しかし紫苑はただ一人、輪の中に入るけれど手を重ねようとはしていなかった。
「紫苑?」
「あー…ごめん。嫌じゃないんだけど、まあ気にしないで」
曖昧に笑ってごまかすと、キンタとカズマが怪訝そうな顔をした。うっすらと予想の付いているリュウはただ黙っているだけだった。
「ま、まずは二手に分かれて気になるところを調べよう!」
場を明るくするように紫苑が言うと、キュウがグーパーでチームを決めようといいだした。



結局チームはキュウ、リュウ、メグ、紫苑とキンタ、カズマの明らかに人数割を間違えたような編成になった。時間もないということで、今回はとりあえずこのまま行動して、情報を寄せ合う時にまた練り直そうということだ。
キンタとカズマが肖像画の方に向かい、残ったメンバーは階段の足跡を見に移動した。
「すっかり乾いてカバカバになっちゃってるね!」
「でもクツの形はくっきり残ってる」
「やっぱりきれいすぎるよね」
「ふーん…この階段の上の現場からだと、二人の部屋のあたりは死角になる…ってことは、」
「犯人はキュウたちの部屋をノックした後、素早くそのあたりに身を隠し、様子をうかがっていた――」
「そしてオレとキンタが階段を上ったころを見計らって、こっそり自分の部屋に戻ったわけだね」
部屋のドアから続く足跡を一つ一つ見て確認した後、階段を上っていく足跡を見てキュウたちは首を傾げている。
「ともかく、足跡を追いかけていって――その時の状況を再現してみましょうよ!」
メグの提案に賛成して、メグとリュウが並んで階段を上ると、キュウは二人の後に続く紫苑よりさらに遅れて上ってきた。
「おっ」
「は?」
キュウが後ろの方で歓声をあげたので紫苑が振り返ると、どうやら下の段から見上げると、ちょうどメグや紫苑のミニスカートの中が見えるようだ。タイツをはいている紫苑はともかく、メグなんかはもろに見えたようで、それとわかったメグはキュウの顔にスニーカーをめりこませた。
「おっ、じゃないでしょ!」
「…紫苑、タイツはいててよかったな」
「…うん。初めてそう思った」
紫苑とリュウがひそひそと言葉を交わしていると、急にキュウが黙り込んだ。
「ご…ごめん。そんなに痛かった?」
メグが心配して声をかけると、キュウが「ヘンだ…」と呟いた。
「この足跡……どう考えてもヘンだよ!!」
「え? ヘンって…どこが…」
「――だってほら!」
「あ! …たしかに、そうだね」
キュウが説明すると、紫苑が納得したように頷いた。
「……ど、どういうこと? それ…!?」
「見ての通りだよ! この足跡の不自然な状況から推理できる犯人はひとりしかいない!」
「そ……そんなことって…!」
キュウの断定する口調に、メグが不安そうに答える。
「――でも他にどんな犯人が考えられる? この島に私たち以外の人がいないことは、メグが証明した通りだよ」
「じゃ…じゃあ、さっき郷田さんの死体のあった部屋に犯人らしき人物がいたのは? あの時建物の下であたしたち全員それを確認してるじゃない!」
「――そのアリバイは僕が崩してみせよう」
「リュ…リュウ君!」
必死に、犯人だという人物をかばいだてるメグに、リュウや紫苑の言葉が突き刺さる。キュウでさえ、その人物をかばうようなことは言わない。ただし彼らの場合、犯人ではなく、謎を解こうとしているようだった。
「僕だって、この足跡から導き出される犯人像を信じたいわけじゃない……――でも。真実を知りたい気持ちは、それより遙かに強いんだ」
風が強く吹き付けていた。





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