case.10


「戻ろう。二重密室の謎は解けた。これでさしずめ、事件の解決率は50%といったところか……次は真犯人の正体を暴いてやろうではないか…! 諸君!!」
そう言って団が中に戻っていった。
紫苑が雨が降っているのになかなか戻ろうとしないリュウに声をかけると、もう少しここで考える、という返答が返ってきた。
「風邪引かないでね。二人とも」
キュウとすれ違いざまそう言い残し、紫苑は先に中にもどった。



「…どう思う? キュウとキンタがみつけた足跡」
「……まだ、何も言えないね」
柱にもたれかかりながら、窓辺で紫苑とリュウが静かに言葉を交わしていると、カズマの一言で部屋がすっかり静かになってしまい、紫苑とリュウもくちをつぐんだ。
「そうだ! ねえ紫苑、リュウ君。君たちの意見も聞かせてよ!」
唐突にキュウが、窓辺を振り返って話を振った。
「んー…私の意見はたぶん、リュウとほとんど同じかな」
「僕に振るな。……そうだな…僕は思いつきでものを言うのは苦手だから、参考になるような発言はまだできそうにないけど――あの足跡には時間的アリバイ以外にも、なにか意味があるような気がする……」
紫苑を軽く睨むと、一言ひとこと考えながらリュウはキュウに伝えた。
「やっぱ君もそう思う? 紫苑は?」
「同じく」
「ちょ…ちょっと待った! おめーらは何を根拠にそう思うんだ?」
三人だけで意志の疎通ができている中、キンタが話に割り込んで疑問をぶつける。
「「「足跡がきれいすぎるんだ!」」」
打ち合わせもなく、きれいにハモった三人は思わず顔を見合わせる。
「……なにいきなりハモってんだ? お前ら…」
キンタが呆れたように言うと、キュウは慌てて弁解し、紫苑は気にしていないように笑っていて、リュウはそんな二人の反応を見て複雑そうな表情を浮かべていた。
「だ、だからね!! 目的理に誘導するだけの理由で残した足跡にしちゃくっきりしすぎてるってゆーかー…」
「そう――主張しすぎている感じがするんだ、あの足跡は…!」
「一日目にここに入ってきた時だって、私たちの足跡さえろくに残らなかったのに」
「確かにくっきりした足跡だったけど…」
メグが意見に対して述べると、キュウがならば誘導以外の理由は何があるだろうかとリュウに尋ねる。
「…さあ。あまり憶測でものを言うと、かえって自分をミスディレクションしてしまうからね」
リュウがそう言うと、キュウは「でも何も言わないでいたら頭働かないじゃん」と言い返し、「憶測でもいいから何か言ってくれよ!」と求めた。
「――その役割は君の方が向いているよ、キュウ!」
「じゃあ言うだけ言うよ!」
リュウの言葉に、キュウが紫苑とリュウに向かって口を開く。
「たとえば足元に注目させといて、あの時犯人は…」
「犯人は?」
「天井に張り付いてた! なんてのはなしで」
「え…!?」
「………もうちょっとマジメに!」
「マジメだって! だからね…」
「しかし…」
「逆にこういう考え方も…」
「それだとさ…」
「それは…」
「じゃあこんなのは?…」
「いや…しかしそれは…」
「となるとこう?…」
メグは、思いついたままあけっぴろげに発言するキュウと、冷静に分析したことを言うリュウ、そして時に補足し、時に第三者の視点を交えてくる紫苑――…三人の意見がぶつかりあい、混ざり合うことに胸を高鳴らせていた。
「「「どう思う? メグは!」」」
ふっと考えこんでいると三人が振り返ってメグに意見を求めた。メグは突然のことに「何が?」と聞き返してしまい、キュウとリュウは顔を見合せて笑い、紫苑は思わず苦笑いをうかべ、キンタやカズマにまでくすくすと笑われてしまった。
「何がおかしいのよ!」
少し照れたように顔を赤くするメグの向こう、扉に不審な気配を感じとった紫苑がそちらを向くと、ほぼ同時に、キンタがシャープペンシルをドアに向かって投げつけた。
「なっ…何すんだよ遠山君!」
ドアを開けると、尻もちをついた白峰がいた。
「なんでぇ、白峰さんか! てっきり切り裂きジャックかと……」
「ば…バカ言ってる場合じゃないぞ! ちょっとみんな来てくれ!」
慌てた様子の白峰に、一行は急いでついて行った。



「こ…これは…!!」
「今度は両腕と首が…?」
第一第二と続き、第三の殺人を予告するように肖像画に切れ込みが入っていた。
「諸君! 全員集まってくれ!」
そこへ団が現れ、全員に招集するよう呼びかけた。



集められたのは、誰もいないはずの西棟で――その西棟のある一室に明かりが灯っていた。
「あそこだ!」
白峰の声に顔をあげれば、一番上の階で、窓の開いている部屋があった。そして開いた窓から血まみれの腕が突き出ていて、それもするりと中へひっこんだ。
「えっ…?」
「腕が引っ込んだぞ!」
「誰かいるんだ! それだけはまちがいねえ!!」
キンタが勇ましく廃材から使えそうな木を手頃な大きさに割り、ヒュンと空を切って武器を手にした。
「遠山流隠密術の奥義よ!」
切り裂きジャックなんて二秒でぼこぼこにしてやるぜ…と勇んでいたが、団が落ち着くように制止した。
「敵を甘く見てはいかん! ここは私が指揮をとる!」
そしてエレベーターに乗り込むと、メグはこの場に残るように告げた。
「君は瞬間記憶能力者だ……現場ではどんな恐ろしいことが起きているかわからん――」
「で…でも…」
「その光景を、一生記憶に焼きつけてしまうことになる」
「…はい……」
団の言葉にメグが頷くと、団は紫苑も残るように告げた。
「えっ…? なんで私まで!?」
「美南君一人を置いていくのは危険すぎる…君も記憶力がいいようだし、万が一誰かがここを出る場面に出くわしたら、うまく対処してくれ」
「……わかりました」
まだ納得がいかないようたが、紫苑は渋々頷いた。





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