case.8


先ほどの部屋に戻ると、真木が検死結果の説明をしてくれた。
その後はすぐにそれぞれの部屋に引き上げた。
「…紫苑。話したいことがある」
「ん。いいよ」
紫苑はリュウに誘われてリュウの部屋に話を聞きに行った。
話の内容はカズマの推理を基にした別の密室の作り方で、それぞれの考えていたトリックが同じだと判明し、二人は思わず顔を見合せてくすりと笑い合った。
「やっぱり、リュウと私は、考えてることがそっくりだ」
「僕も驚いたよ」
くすくすとひとしきり静かに笑い合うと、リュウがふっと真面目な顔つきになった。
「紫苑」
「ん?」
「――…君はもしかして、昔」
「あ…ごめん、リュウ。もう眠いし、切り裂きジャックにいつ会うか分かんないから」
リュウの言葉を遮るように、紫苑は早口でまくしたてると立ち上がり、リュウが声をかける暇もなく部屋を出て行ってしまった。
「……どうしてもっと気のきいた訊き方ができないんだ…!」
リュウは自己嫌悪に陥りながら窓の外に目をやった。



その日の夜中、第二の殺人事件が起きた。獅子戸が肖像画のいたずらと同じように、胴体を横でふたつに切断されていたのだ。
「脅し、にしては効果薄いけどね」
紫苑が第一、第二と続けて起こった肖像画へのいたずらをみて感想を漏らした。
「何ということだ…探偵を志し、我が校を受験してくれた将来のある若者が立て続けに二人も…。許せん…! 切り裂きジャック!! こうなったら全員で島を捜索して、何としても切り裂きジャックを――…」
拳銃を取り出し、決意を露わにする団を、メグが引きとめる。
「確かに調理場は荒らされていました。卵は割られ果物や野菜は引きちぎられて散らばり――保存容器にしまってあったパンもめちゃくちゃになってました……。でも、減ってなかったんです!」
え、と白峰と郷田が呆気にとられた顔をしている。
「あたしは一度見たら決して忘れない瞬間記憶能力で、きのう夕食の支度を手伝った時に見た食材の数や分量をすべて覚えてたんです。それで今日の朝食分を差し引いてひとつひとつ散らばってる数量を確認したら――小麦粉が約50グラムと、バターがひとかけら減っていたのを除いて、何一つ持ち去られた様子はなかったんです…!」
「小麦粉とバター?」
カズマが不思議そうに呟く。紫苑とリュウはちらりと視線を交わすと頷き合った。
「――もしそれが事実なら、大変なことだ!」
「どういうことですか? 団先生!」
「私はこの島に潜む何者かが異常心理で過去の事件を真似て殺人を繰り返しているものと思っていた。――しかし…食料がとられていないとしたら、調理場を荒らした理由はひとつしかない…!」
「まさか…オレら以外に飢えた何者かがいると思わせるための――偽装工作…!!」
キュウの言葉に、団がそうだ、と頷く。
「まったくもって信じがたいことだが――殺人鬼・切り裂きジャックは今…ここにいる11人の中に潜んでいるのかもしれんぞ!」
団の言葉はあまりにも衝撃的だった。キンタが足跡を指摘するが、キュウと白峰がそれこそ偽造工作の一つかもしれないと指摘し返す。
「フッ…じゃあこういうことも考えられるなあ? 白峰……」
「郷田さん!?」
「何もかもキュウ君…君の自作自演だってこともね」
「え…!?」
郷田の発言に、キュウとキンタが息をのむ。
「確かに、第一の事件で鍵を見つけたのはキュウだったね」
「紫苑!?」
「あくまで、事実を言ってるだけ」
キュウたちをかばったりかばわなかったり、立ち位置の変わる紫苑にいらいらしながらもキンタはキュウをかばい続ける。
「かばう理由なんてないだろ? 人のよさそうなガキが実はいかれた殺人鬼だってこともあるかもよ?」
「でもこいつは殺ってねえ!!」
「だから理由は!?」
郷田の売り言葉にキンタの買い言葉で、業を煮やした郷田がたずねると、キンタは堂々と言い放った。
「俺のカンだ! ご先祖譲りの俺のカンがそういってんだ。こいつは――キュウは信用できる!」
「人を第一印象で判断するのは危険だよ、キンタ君!」
キンタの言葉にメグが胸をなでおろしていると、リュウが口を開いた。キンタは紫苑といいリュウといい、敵か味方かわからない発言が多すぎると思い口を開きかける。
「ただし――僕もキュウ君が犯人だと決めつけるのは早計だと思う…」
「だって郷田さんの言う根拠である二重密室は、ちょっとしたトリックで突破できるからね」
まさに阿吽の呼吸で、リュウと紫苑が顔を見合せてくすりと笑う。
「僕のそのトリックの答えを示してくれたのはカズマ君――君が昨日僕らの前で見せた推理と、屋上をいつまでも転がっていった五円玉……」
「それにメグがたった今教えてくれた二つの事実――消えた50グラムの小麦粉と、ひとかけらのバターがね」
「小麦粉とバター……そ…そうか!」
キュウがリュウと紫苑の言葉で何か合点がいったかのように閃いた。
「カズマ君の推理は、あながち的外れでもなかったんだ!」
とう本人であるカズマは何が何やら、といった風に見られるが、リュウはそんなことを気にする様子もなく団にある確認を取っていた。
「三郎丸君の遺体は、まだ現場にありますか?」
「いや…あのままでは腐敗が進むので他の場所に移したが―――…」
「そうですか……ではすべて現場で再現しましょう。半世紀前に切り裂きジャックの名のもとに作りだされ、そしてふたたび繰り返された二重密室のからくりを解き明かすために……!」
その場にいた全員がリュウの言葉に息を殺していると、リュウが先に屋上へ向かっていてくれと言う。
「リュウは?」
「僕は準備をしてから」
リュウは紫苑にそう返すと、団に倉庫のマザーキーをかりて、一人調理場に向かった。紫苑がその後を追うか迷っていたが、先に現場で待っていることを選んだようだった。
「あいつ…すでに現場を経験してやがったのか…」
どーりで肝が据わってるはずだぜ、とキンタがカズマの情報に驚いていると、キュウが階段の足跡を見て首をひねっていた。
「どうかしたの、キュウ?」
紫苑がキュウの後ろから階段を覗き込むと、キュウはうーんと唸った。
「うん…何かとんでもないことを見落としてる気がするんだよな〜」
「とんでもないこと…?」
紫苑はキュウの言葉にもう一度階段をよく見たが、キンタ達が先に行ってしまったため、キュウを誘ってあとを追った。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -