開会式の会場から移動して、ドームに改めて案内される。
試合は全六十四チームで行われ、四つのブロックに分けられる。烈火たちはAブロックに振り分けられた。
トーナメント一回戦、Aブロック第一試合を審判の辰子という女性が高らかに宣言する。

「まずは、花菱烈火率いる、火影!!」
「イキナリかよオイ!」

チーム名がいつの間にか決まっていたことに風子が突っ込みつつ、会場は緩やかな雰囲気に包まれる。漏れ聞こえる声は、初出場の火影を馬鹿にする言葉ばかりだ。

「続いて…対戦チーム、空!」

その名が轟くと、歓声が上がった。雲泥の差に、ため息をつかずにいられない。しかも空は東北に名高い格闘集団らしく、会場の流れは確実にそちらへ向かっている。
憤る風子や土門を宥めて、戦う順番を決める。大将戦は勝ち残ったメンバーから選出するということで、先鋒から凍季也対大黒の試合開始がコールされた。

「さて…お手並み拝見といこうか、水鏡」

水の刃を携えた凍季也を見て、桔梗がくすりと笑みをこぼす。刃の澄み、硬質さは芸術と言っても過言ではないほどに美しい。

「我が名は大黒! 空随一の棒術使いよ!」

大黒は手に持っていた棍棒をリングに叩きつけ、飛び散った破片をすべて粉々に打ち砕く。

「だから何だ? つまらない曲芸だ」
「ならばうけるか!? 我が棒術!」

凍季也は余裕のある笑みを浮かべ、大黒の素早い突きを正確に避けていく。大黒がならばと粉塵を巻き上げて目潰しをした後、凍季也をリングの外へ大きく弾き飛ばした。

「水鏡! ……死んじゃった?」
「……勝手に殺すな、ミジンコ男」

烈火の隣からひょっこりと立ち上がった凍季也は再びリングに上がる。その足に、出血を伴う傷を負って。

「あとはあたしらに任せなさい、みーちゃん!」
「イヤだね! 心配せずとも、もうあの棒はくらわない」

風子の発言を無表情に断ると、烈火たちを振り返った。

「――扇風機の止め方、知ってるかい?」

見当はずれな答えを返す土門、風子、柳に「マヌケ」と言い返すと、閻水を構えて大黒の前に再び立つ。

(来るか……氷紋剣…!)

こめかみにぐっと力を入れて、桔梗は凍季也を見つめた。心配をするのでもなければ、信頼している目でもない。ただ、見るために見ている。
大黒の連続突きを避けることなく、凍季也は宣言通りに全てを封じてみせた。すなわち、回転の中心を押さえること。正確で困難なその剣技に、しかし桔梗は、険しい表情を崩さない。

「究極千本撃!!」

更に数を増やした大黒の武器を、数度閻水を斬り払うことで破壊する。

「思い出したぞ…あれこそ、剣神とうたわれた巡狂座の氷紋剣!」

空海が凍季也を見て思い出すと、大黒の身体が閻水に切り刻まれる。

「君は決して弱くなかった。あくまで常人レベルの話だけどね。…僕にとっては、やはり曲芸だった!」

審判辰子が凍季也の勝利を宣言すると、会場が番狂わせな展開に盛り上がった。
桔梗は深く考え込んでいたが、凍季也がリングから戻ってくると、騒ぐ烈火たちとは別に静かに出迎えた。

(氷紋剣の性質は、特化された動体視力と並々でない正確さだ)

どちらも十分に満たしている凍季也は、端から見れば火影中最強に思える。慢心はないようだが、自分がそれなりの使い手であることは承知しているようだ。
しかし凍季也の戦術は、あくまで氷紋剣ではなく、閻水を使った剣技。氷紋剣の創始者が閻水を使っていたからとはいえ、本来この剣術はどんな刀を使っていようが可能なものだ。

(つまり氷紋剣に頼るだけでは、この闘いに残ることはできない)

紅麗をはじめとする強力な敵たち。魔導具を使う集団もあれば、肉弾戦を挑む集団もある。凍季也のように格闘が向かないタイプは、いかにそれを避けて勝ち進んでいくかが重要になる。おそらく凍季也本人もそれをわかっているのだろう。別の理由を併せても、凍季也が閻水を使うのはそういうわけだ。単なる剣術で勝ち残れる甘い闘いではないと。

「桔梗、どうかしたのか?」
「え? あ、」
「このおバカ!」

確かに土門や風子は伸びしろが期待できる、育てがいのある二人だが、桔梗個人としては、凍季也にもっと力をつけてほしい。そんな風に考え事をしていると、凍季也に声をかけられてはっとする。
リングには土門がいる。手こずって苦戦していたところから巻き返したのはいいものの、自身にもダメージが蓄積して勝負は引き分けとなってしまったようだ。
続いて、風子がリングに上がった。。今までとは少々風向きが違うのが気になる。

「なァ、おねーちゃん! バストのサイズいくつよ?」
「はあ? …聞いてハナヂ出すな、87のナイスバディよ! それがどしたい!」

藤丸という相手のセクハラ発言にも、風子は強気に答えてみせる。桔梗がちょっとだけ眉を寄せると、「水鏡」と呼びかけた。

「どうした?」
「いや……、笑うなよ?」
「…は?」

気の抜けた返事をした凍季也に、弁解するように畳みかける。

「本当に、知らないから聞くんだからな」
「いや、わかったから…なんだ?」

念を押したあとの桔梗の言葉に、凍季也は呆気にとられ、どう説明したものかと考え込んでしまった。

「……ばすと、ってなんだ?」

桔梗がこの五百年間、いかに世間と接触していなかったのか、たどたどしい発音を聞きながら凍季也は思い知らされた。


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