桔梗の質問に答えていいものかと、凍季也が考えてあぐねているうちに決着がついた。
卑劣な藤丸に対し、風神に核の代替として鬼の爪をはめ込んだ、謂わば合体魔導具とでも呼ぶべき『風の爪』で形勢を逆転。番狂わせに、会場は大いに沸いた。

「風子は発想が柔軟だな…あんな使い方は私も初めて見た」

先程の問はどうでもよくなったのか、桔梗が感心したように呟く。魔導具に詳しい陽炎よりもその生は長いというのだから、桔梗は魔導具との付き合いがより長く、より詳しいのだろう。その桔梗に初めてだと言わしめた風子には、力が隠されているのかもしれない。

「さて、次は……」

電光掲示板を見上げると、次は火影にリーチのかかった副将戦、烈火対最澄。負ければ後がない空だが、最澄は穏やかな雰囲気だった。風子の怪我に包帯を巻くと、羽織っていた胴着を貸してリングに立つ。互いの力を見せ合い、尋常に勝負が始まった。

「…ほう、式紙か。あれはなかなか」

陽炎に最澄の魔導具について聞いていた凍季也は、自身の傍らで呟いた桔梗に目をやった。桔梗の目線は烈火たちを追っている。
喧嘩慣れしている烈火の接近戦に堪える最澄だが、間合いをとると式紙を発動し、紙の包帯で烈火を襲う。癖なのか、式紙発動のきっかけに和歌を小さな声で詠んでいる。

(ふむ。式紙は元より隠密向き……使えないわけではないが、烈火に動きを捕らえられてしまえば、紙は容易く燃え尽きる)

現に烈火に巻き付いていた紙は、八竜が一匹、砕羽によって破られた。砕羽を出さざるを得ない状況まで追い詰めた最澄の実力は確かだが、桔梗は二人の斬り合いを淡白に見つめていた。最澄の挙動には、どこか儚さを感じる。

「勿体無いな…」
「桔梗、どうかしたのか?」
「ん、ああ……構うな」

凍季也へろくに返事もせず、試合を見つめる。
六歌仙、芙蓉と立て続けに食らった烈火がリングに倒れ込んだ。十五分経つと告げる空海から千羽鶴を受け取った最澄が、それら全てを空に浮かべる。圧巻の景色にいち早く反応したのは、やはり凍季也だった。

「早く砕羽か崩を出せ、烈火!」

その数、そして最初に鶴を浮かべていたことから凍季也が導き出したこと……それは、起き上がった烈火にも簡単に想像がついた。
紙といえども、これだけの数に襲われたら一溜まりもない。

「いきます! 千鶴!!」

深く息を吸い込んだ最澄は烈火を真っ直ぐに見据え、千羽の鶴を一斉に飛ばした。誰もが最澄の勝利を確信したその時、烈火は迫り来る鶴から逃げるでなし、右手を高く上げた。

「出てくる時間だぜ、崩!!」

その瞬間、地面に穿たれた穴からいくつもの火球が現れて鶴を燃やし尽くした。一羽残らず落とされた鶴を悔しそうに眺めながら、最澄が倒れる。
空の敗退、そして火影の二回戦進出に会場が湧き上がる。

(崩のあれは…やはり……)

裏武闘へ来てからというものの何かと考え込んでいる桔梗を見ながら、凍季也はリングに目をやった。特例として認められた、烈火と空海の試合。まるで桔梗の視界には入っていないようだが。

「……水鏡、私は少し外す。偵察に行ってくるから、何かあったら陽炎に伝えておいてくれ」
「おい、」

呼び止めたものの、桔梗は構わず会場を後にした。追うわけにもいかず、凍季也はまた試合に目を戻した。空海の圧倒的な強さに眉を寄せながらも、意識は桔梗のことでいっぱいになる。

(そう言えば……)

ふと、桔梗の視線を思い返して気がついた。

(妙に八竜ばかり見ていたな…)

修行に付き合ってもらっているとき、閻水に向けていたのと同じ眼差し。あるいは、ふと凍季也を見つめるときと同じ眼差し。
それらは総じて、ここではないどこかを、凍季也ではない誰かを見つめているようだった。


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