「ちょっと待ってくれ」

ぽかんとしている一同をさておき、今まで寝そべっていた凍季也が体を起こして手を挙げた。

「桔梗の話を聞いていない。今までのニュアンスから察するに、君も不死なんだろう?」

その言葉に烈火たちが改めて桔梗の顔を見る。陽炎が複雑そうな顔で桔梗を見やると、桔梗は小さく笑った。

「そうだな……私は陽炎よりも前の火影忍者だ。ある男を探して不老不死になった」
「その男って、何者だ?」

烈火の問いに、一瞬言葉を詰まらせる。桔梗の脳裏を五百年前の記憶が残像となって駆け巡る。不審に思った凍季也が声をかけようとして、何かの気配に閻水をつかんだ。

「どした、みーちゃん?」
「気配ぐらい読めるようにしておくんだな」

凍季也の言葉と同時に桔梗が立ち上がり、外から何者かによって襖が切り取られた。そこにいたのは三人の男たちで、いずれも魔導具を持ち、紅麗の配下と名乗る。

「三下が吠えるなよ」

桔梗が無表情で焔狐を喚び出すと、彼らは静かな殺気に怯んだ。冷ややかな視線に烈火たちも息をのみ、風子や凍季也も武器を手にしたまま動けなくなった。

「焔狐、三番」
《御意。三玉で良いな》
「一玉で十分だ」

空気を捻るようにして焔狐が姿を現すと、顕現の火の粉をまき散らしたまま尻尾を一本振るう。サッカーボール程もある火の玉が三人に直撃して破裂した。

「汚れた身で火影を犯すな。――殺すぞ」
「ひっ! …くくっ!」
「っ柳!!」

幸いにも被害の少なかった一人が柳に向けて魔導具を発射する。桔梗の炎では落とし切れないと思ったとき、陽炎が柳を庇って背中に傷を負った。深手でもないため、傷そのものはすぐに癒える。しかし急な話にパンクしていた烈火にスイッチが入り、右腕から炎を出す。それは先程桔梗が出した炎の玉に似ていた。

「大丈夫か、母ちゃん!」

床にくずおれた陽炎の身体を支えるように烈火が駆けつける。陽炎は嬉しそうに烈火へ手を伸ばした。

「今、母と呼んでくれたわね……」
「ばっ、これは違う!」

照れる烈火を風子たちはひとしきりからかう。

「あ! 烈火、あんたいっつもママがほしいって言ってたよね? 陽炎を家に呼べば?」
「はあ!?」
「いいじゃねえか、それ!」

風子の提案に、土門や柳も便乗して薦める。烈火はあちこちを見回して悩み、陽炎は桔梗を見ておろおろとした。桔梗はそんな陽炎の背中を優しく押す。

「烈火、陽炎の食事は美味いぞ」
「桔梗様!?」

にこりと笑って烈火に押し付けるようにして送り出すと、烈火も決意したように頷いた。

「母ちゃん、うちはムサいとこだけどよ、良かったら来てくんねえかな?」

我が子に出会い、言葉を交わすことを許された陽炎は涙を流し、烈火を抱き締めて喜んだ。

「ですが、桔梗様は…」
「心配ない。僕が預かろう」

心配そうに桔梗を見た陽炎に言い放ったのは、何故か凍季也だった。

「いや、私はここで…」
「個人的に聞きたいことがいくつかあると言っただろう?」

幸い僕は一人暮らしだしね、と付け加えられた言葉に慌てたのは、桔梗ではなく陽炎だった。

「桔梗様を水鏡くんひとりに任せるのは心配です」
「みーちゃん、人がいないからって変なことすんなよ?」
「何の心配してるのかな、君たちは」

こめかみに怒りマークを浮かべながら凍季也が反論する。それでも心配する陽炎が桔梗を振り返ると、桔梗は珍しく小さく声を立てながら笑っていた。

「ありがとう、陽炎。私のことなら気にするな。しばらくは水鏡の世話になる」
「だってさ、みーちゃん。…みーちゃん?」

初めて見せた、温かく柔らかな笑顔に目を奪われていると、隣に近寄ってきた風子に脇腹をつつかれる。桔梗はぼうっとしていた凍季也を見て、顔にかかった髪を払いながら目を細めた。

「あ、ああ」

凍季也は、その笑顔にまた別の感情を感じ取った。どこか遠くを見つめた、寂しげな瞳。

「行こうか。暮れるまでに下りてしまおう」

陽炎が支度を整えたところで桔梗が先立って歩き出した。





数日は各々、修行をして過ごしていた。言われるがままに桔梗は凍季也に付き合った。しかし手合わせをするわけでもなく、ただ静かに見ているだけだった。

「君はどうして僕を、そして美冬姉さんのことを知っていたんだ」

さらに数日後、火影一派として紅麗、引いては森光蘭から裏武闘殺陣なる大会へ招待を受けた帰り道だった。聞きたいことがあるといっていた凍季也が、やっとそのうちの一つを口にした。

「…正確には、私が知っているのは水鏡家代々だ」
「それでも、何故――」
「すまない。……今は答えられない」

申し訳無さそうに、しかし明らかに拒絶の意思を露わにして桔梗が顔を背ける。凍季也はしばらく黙り、そして頷いた。


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