現れた八頭の竜たちは、てんでバラバラに暴れ出した。烈火の腕を焼きながら館を破壊していく。

「これがあの子の本当の力? 予想以上の潜在能力!」

陽炎が力無くへたり込んだ。その肩を支えて、桔梗が烈火と八竜を見上げる。

「――まさか」

二頭の竜に目を留め、息をのむ。一頭は髭の長い竜、もう一頭は大きな一つ目が正面にある竜だ。一つ目の竜と視線が交差したように感じるが、すぐに体をのた打ったために真実はわからない。

「人間に太陽は操れない……」
「ぶざまだな、烈火! そのまま燃え尽きるがいい!」

陽炎の呟きに桔梗は顔を伏せ、紅麗は楽しそうに笑っていた。

「れ、烈火く…ん…」

ふと、壊された壁の向こうから、弱々しくも柳の声がした。研究員たちは逃げ、残された柳も、縛り付けられていた電気イスが壊れ床に座り込んでいた。烈火を見上げて安堵の息をつく。

「っ、待て…!」

竜の一頭が柳に気付いて襲いかかる。桔梗が手を伸ばし、竜が口を大きく開けて食らいつこうとした刹那、烈火が吠えた。

「やめろ馬鹿野郎ー! 調子のってっとぶっ殺すぞ!!」

その声に、竜が柳の眼前でぴたりと動きを止めた。

《今…我に命令をしたのは主か? 小僧!》
「おお、文句あるか固羅! 姫に指一本でも触れたら首根っこへし折るぞ!」

烈火の右腕から八竜が切り離され、その内の一頭が口を利いていた。
烈火は少しも臆さず、巨大な竜たちと対峙し、話していた。八竜の長と名乗る裂神は気性は荒いが烈火に襲いかかる素振りもなく話を聞いている。その内容は、力を貸す代わりに烈火が右腕を差し出すというものだった。

「絶対許せねえ奴がいる。自分のためなら、女も子供も笑いながら殺すことができる。そんな奴には負けらんねえ!」

右腕を高々と掲げ、真剣な眼差しで紅麗を睨みつける。そして裂神にただ一度、紅麗を、目前の敵を倒すため、命令を下した。

「翔べ!!」

裂神は紅の右半身を食いちぎり、紅麗本人の体を焼いた。衣服が焼け落ち、表情を隠していた仮面を壊された紅麗が、なおも立ち上がり口元に笑みを浮かべた。

「まだ戦える! さあ、続けよう烈火!」

白く端正な顔立ちに、どこまでも堕ちるような漆黒の瞳。そして顔の左半分近く、目元を中心に皮膚が爛れて引きつった火傷の痕がある。

「…紅麗様――お迎えに参りました」

土煙の向こうから、四人の人間が姿を表した。体格のいい大男、老人、女性、そして紅麗に声をかけた青年。紅麗は膝をついた烈火と彼らを見比べたあと、烈火に背を向けて歩き出した。

「は…わはは…」
「烈火くん」

紅麗たちが姿を消すと、烈火が尻餅をついて今更のように震え出す。ようやく気がついた面々は烈火に飛びつく柳を見てそれぞれに安堵した。
しかし八竜の存在に気がつくと仰天し、柳を離してから烈火が裂神に話しかける。

「きたねー腕だけどもらってくれや。おめーのおかげで姫は助けられた。ありがとよ!」
「だめぇー!!」

笑顔で右腕を捧げる烈火に柳の声が重なる。裂神の前に座り込み、涙を流しながら懇願する。

「みんな…いっぱいケガをして助けに来てくれました。恩返しがしたいです…」
「……裂神。烈火らはこれから未来のある者たちだ。欲しければ私の腕でも脚でも持って行くが良い。今更手足がなくなったとて死なぬ身だ」

柳の前に立ち、両手を広げた桔梗の言葉に八竜も含めた全員が驚く。八竜は居心地が悪そうに頭をもたげた。

「やめい! これは俺の…」
《烈火とか言うたな…今回は貸しておこう。主は面白い。もう少し、主の戦いを見届けたくなった。再び主の中をねぐらに楽しませてもらう…》

裂神が言葉を残し、八竜が烈火の右腕に戻っていった。陽炎がその腕に手甲をはめてやる。
烈火たちは救出した柳や立迫を連れて、本格的に倒壊し始めた紅麗の館を後にした。





日を改めて、陽炎に指定された山を烈火たちは訪れていた。現代では想像出来ないような広い日本家屋を目の前に、感嘆の声を上げる。

「普段は結界を張ってある火影の屋敷だ」

烈火たちを出迎えるように桔梗が立っていた。気配や足音もなく、突然現れた桔梗に一瞬警戒するも、すぐにほっと息をつく。

「なんでえ、桔梗か」
「中で待っている。早く上がれ」

にこりとも笑わずに、扉を開けて中へ誘った。
広い座敷で囲炉裏の前に座っているのは、白い着物を着た陽炎だった。用意された座布団に各々が座り、桔梗は陽炎の隣に腰を落ち着ける。

「まずは烈火! 影法師とは偽りの名……私の名は陽炎。あなたの母です」

騒ぎ出した烈火を土門や風子が押さえ、陽炎がゆっくりと話し始めた。





戦国時代、忍の一族に火影一族があり、その頭首には炎を生み、操る力があった。そして六代目頭首桜火のときに、正妻陽炎から烈火が産まれた。
しかし、桜火には側室麗奈がいた。麗奈には烈火より四歳上の異母兄弟たる紅麗がいる。紅麗は本来殺されるはずであったものを陽炎の願いにより助けられ、牢の中で監視されていた。
ある時、火影の里に火急の報せが届く。天下の織田信長が火影を攻めようとしているという。桜火は戦うことを決意した。しかし織田の目的である火影魔導具を守るため、魔導具は一切許されない戦だった。
火影は敗れ、滅んだ。
ただ二人の赤子を除いて…それが烈火と紅麗だった。陽炎は我が子を戦乱のない時代へ送るため、使えば自らが不死となる時空流離を使い無事に烈火を送った。同時に、牢から逃げ出した紅麗まで時空流離に飲み込まれ、陽炎は不老不死となった。そしてその時、陽炎は桔梗と出会った。
それから四百年の時を経て、陽炎はやっと烈火の生きる時代に追いついた。





それが死のない女、陽炎の話す全てだった。


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