館突入直後、ホールで待ち受けていた石像を烈火、風子、土門がコンビプレーで破壊。
続く部屋では、人形を操る女性・形代零蘭がいたが、風子により人形の少女こそが人間であり、零蘭は魔導具であると暴かれた。森川願子と名乗った少女を連れて、さらに柳を探して奥へ奥へと侵入していく。
次の間は石造りの照明が弱い部屋で、巨大な男がいた。願子が説明するには、二百年の刑を科されたはずの石王という者だった。苦戦しながらも、土星の輪によるパワーで土門が勝利を納め、無事に次の部屋の扉を開いた。
桔梗はただ傍観し続けている。戦闘中にちらりと見られることもあったが、手伝ってくれとは一度として言われなかったからだ。傷を負いながらも柳のために闘う少年少女を見て、黙りこくっていた。

「…行くぞ」

今までのように勢いだけで扉を開け放つことはなく、烈火が静かに声をかけ、慎重に開いた。部屋の中央に立つ少年を見て、烈火と願子があからさまな反応をとる。

「おいーっス!」
「げっ! 小金井…」
「て、てめえは姫と先生をさらったクソガキ!!」

あどけなさを残した小金井薫がにこっと笑う。その体躯には見合わぬ大きな魔導具・鋼金暗器を携え、裏切り者である願子にさえ明るく挨拶をした。その若さで鋼金暗器を操ることに驚きながらも、冷静に薫を見つめる。軽やかな動きで烈火たちにその威力を見せつける。

「ガッカリだよぅ! 肩すかしくっちゃった。お目当てのナイト様もいないみたいだし…」

足留めしろって言われてるんだー、と無邪気に笑うと、薫は手元のスイッチを押した。部屋の中央の天井が下りてくる。
あれと思う暇もなく、土門がその下に飛び込んで天井を食い止めようと足を踏ん張る。風子が続き、烈火までも続いてしまう。

「ねえ、あんたもなんとかしてよ!」

風子が震える声で桔梗に助けを求める。仕方がないとため息をついて右手を握り込んだとき、堅く鋭い音が部屋に響き渡った。

「四人…いや、三人そろってチンパンジーだな。そんな事して何になる?」

呆れたように言い放つ人影を振り返る。天井のそれはその人物が見事に切り捨ててたため、烈火たちも自由になる。

「おどれーた…てめーがこんなトコにいるなんてよ。水鏡凍季也!」
「気にするな。別におまえらを助けるために来たわけでもないしな」

風子、土門、烈火を指さす。

「サル、ゴリラ、シーモンキー。動物愛護の精神だよ」

いきり立つ風子をなだめながら、桔梗は凍季也の方を見る。ばちんと視線があい、じっと見つめていると気まずそうに視線を外された。

「柳姉ちゃんの言ってた強くてカッコイイナイト様って…兄ちゃんだね!?」

薫が元気よく質問すると、全員が呆気にとられる。しかしすぐに、凍季也が肯定した。

「そうだ!」
「ちょっと待て、水鏡!! ズーズーしいぞ!」
「おまえに怒られるスジはない。おまえは柳さんの忍となる事を誓った。それなのに彼女をさらわれ、今も助けられずに石壁と力比べか? ――よもや約束を忘れたわけではないだろう? 柳さんに万が一の事があったとき、死をもって償うことを!!」

くってかかった烈火に刺すような視線をくれる。しかし凍季也は事実、飛びかかってきた薫の攻撃をいとも簡単に防いでみせた。やはり烈火たちと比べれば能力は格段に高い。薫に対しても余裕を崩さずにいる。

「当然だ。絶対助けてみせる!」
「…目は死んでないな、安心した。早く行け」
「おまえは?」
「三匹の子ザル…と、ついでに一人。援護をしてやる」

凍季也が烈火に柳を助けに行くように言い、烈火たちは薫を凍季也に任せて先に進んだ。
桔梗は残るべきか迷ったが、烈火たちについて行こうと扉に手をかけた。ふと、凍季也が閻水を構えてぽつりと零した。

「終わったら、聞きたいことがある」

薫は頭上に疑問符を浮かべていたが、桔梗は苦笑いして頷くと、「ああ、わかった」と言って部屋を後にした。





「命だけは助ける。武器を置いて去れ!」
「う…うう…うわあーん!!」

傷を負ってしまったが、なんとか薫の戦意を喪失させ、凍季也は勝利を納めた。
プールいっぱいの水を固めた閻水は容易く切れ味を落とすこともなく、凍季也の武器として、そして形見として左手の中に収まっている。大切そうに凍てつく刃を撫でると、そっと目を伏せた。

「……東雲桔梗、」

突然現れた彼女は、警戒する凍季也にこう言った。

『佐古下柳を知っているか』

知らないと答えれば、知るといい、とだけ返ってきた。それよりも先に桔梗の正体を訊ねようとしたが、柔らかく温かな、東雲色と菜の花色の入り混じった火の粉が飛び散ると、そこにはすでに桔梗の姿がなかったのだ。
初めから凍季也の閻水を知っているようだったし、柳を知らされたことで、結果として姉のことも知られているのではと警戒する要因になった。
しかし、凍季也が思う以上に桔梗からの接触はなく、話そうとするといつの間にかいなくなっていた。今回この館に来たのだって、影法師という桔梗の使いらしい人物からの情報だ。

「君は、一体――」

その時、ぐらりと地面――正確には館全体が大きく揺れた。この先に柳がいるとしたら、間違いなく見張りや薫のような敵がいる。烈火の助太刀をするわけではなく、柳を助け出すためだと自身に言い聞かせて、凍季也は走り出した。


prev  next

目次 しおりを挟む

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -