有名整体師の娘で、ライバル校のマネージャー。優しくて温和で時に厳しくアメと鞭を使い分けるのが上手い。俺が藤崎なつめに対して抱いていた印象はただそれだけだった。



俺は勿論女が苦手だから、面と向かって話したことなんてない。ただ、誠凛の試合を見る度に黄瀬からしつこく聞かされていたこともあったし、森山が一目見る度に、女神だの天使だのアフロディーテだの言うから一方的な印象を抱いていた。



この教室で起こされた時、1番最初に目に飛び込んできたのは心配そうに俺の顔を覗き込む黄瀬と、横にいる藤崎の顔だった。2人が、俺が全くの無事だと分かるとあからさまにホッとして良かった…と言うもんだから、照れ隠しに黄瀬の肩をバシンと叩いたのは悪いと思っている。これから先一緒に行動するかもしれないんスから、藤崎センパイに慣れといた方が良いっスよ笠松先輩!と黄瀬が藤崎を俺に近づけてきた時は、正直言って死ぬかと思った。畜生黄瀬の奴。けど、黄瀬の言うことも一理あるので俺は恐る恐る藤崎と握手した。手が触れた瞬間肩が跳ねて内心情けねぇとも思ったけど、頑張って耐えた。決して藤崎が悪い訳じゃねぇ。勘違いするなよ。



場の空気に流されそうな大人しい奴。と思ったのは案外ハズレだったのかもしれない。元帝光の主将の虹村と陽泉の氷室が教室を出ていって、虹村を停学処分にする、みたいなふざけた内容の放送が入った時の藤崎の行動は早かった。1番早く虹村の名前を叫び、誰よりも早く虹村と氷室の元へ向かおうとする。赤司に止められても行こうとして、最終的には赤司が折れて結局秀徳の高尾と緑間を引き連れて職員室へと向かっていった。男を差し置いてするような女の行動じゃねぇな、と思った。肝が据わってる、と思った。



藤崎が残していった30分、という言葉が何回も心の中でリフレインして、頭から離れなかった。それは他の奴らも同じだったらしく、皆が皆タイマーを気にしていた。



ガラッと教室の扉がスライドされ、外から虹村を背負った緑間、高尾、藤崎、何かゴルフバックのような物を背負った氷室がようやく帰ってきた。時間は藤崎が告げた30分ギリギリで、心の片隅でホッとしているらしくない自分がいた。桃井なんか泣きそうになって藤崎に抱き着いている。



虹村の容態を聞き、耳を疑った。けれど、藤崎が氷室が背負っていたバックからスナイパーライフルを取り出し、彼女の口からスラスラ飛び出してくる聞き覚えのない単語にも耳を疑った。それは黄瀬や他の奴らも同じで、ポカンと口を開け藤崎を見つめている。



あっけらかんとして重度のミリオタだと説明した藤崎に、人は見かけによらねぇんだって事を改めて思い知らされた感じだった。



待機班が出て行ってから10分後、藤崎を連れて赤司の班が出ていく。俺のチームにいる伊月と日向に気をつけて、と言った藤崎の瞳は真剣で、目をやっていたら目が合った。思わず視線を逸らすと、苦笑いされたのが分かる。黄瀬の藤崎センパイ気を付けて下さいっスー!という声にありがとう、黄瀬も気を付けて。笠松さんの言うこと聞くんだよ?なんていう返しが聞こえたもんだから、心が広いヤツなんだな、とも思った。泣き言も言わず、弱音も吐かず、高校2年の女子とは思えないほど強い心を持った藤崎に、俺は感嘆するばかりだった。

















「それにしても藤崎センパイがミリオタって意外っスね。人は見かけによらないんスねぇ」
「戦う女神……やはり素敵だ……!クソ……何で藤崎さんと同じチームじゃないんだ……!」
「お前は黙ってろ森山」
「宮地さんがドルオタで吃驚なのと同じっすね!イメージ的には!」
「あ゛?轢くぞ高尾」



笠松がバシンと森山を叩く。宮地が高尾にヘッドロックを掛ける。黄瀬の言葉に頷く者は少なくなかった。細いけれど、どう見ても運動が出来るようには見えないし、大人しそうな女子高生である。ここにいない相田ほどサバサバしている訳ではないし、桃井ほどThe・女子!という訳でもない。本当にどこにでも居るような女子高生。





















「俺は知ってたぜ、藤崎サンがミリオタでサバゲー経験者だって」



ボソリと青峰が呟いた声は思いのほか反響し、黄瀬が目ざとく反応する。何で知ってるんスか!と座って壁にもたれ掛かっている青峰の肩を掴み、グラグラと揺さぶっている。青峰は面倒くさそうに黄瀬の腕を自身の肩から外す。



「お前が知る訳ねーよ、俺らが中1の時の話だからな。お前まだバスケ部入ってなかったし」
「知りたいっスー!!」
「ったくうっせーな……、……たまたまだったんだよ、俺が知ったのは。丁度休日の部活がねー午後にテツと買い物してたらよ、ミリタリーショップから灰崎と虹村さん、藤崎サンが出てきたんだ」
「ショーゴくん……?」
「あぁ。あっちは俺に気付いてなかったみてーだけど、会話はバッチリ聞こえてた。次のサバゲーがどうたらこうたらって言ってたしな」
「……そうだったんスか」



灰崎、という名前に若干眉を顰める黄瀬だが、理由が分かってスッキリしたのかようやく青峰の肩を離す。



「黒子っちも知ってたんスか?」
「はい。青峰くんと買い物に行った時以外にも藤崎先輩と遭遇して、恥ずかしいから誰にも言わないでくれって口止めされてたんです」
「その割には簡単にバラしてたな、さっき」
「非常事態だからやろ」



10分経ったで、と言う今吉の声に皆はタイマーを見る。どうやら思いの外時間が過ぎていたらしい。さて、次はどの班が行くかと思案する。



「ほな、2組に分かれよか。高尾くんのいる岡村くんの班は花宮の班と。伊月くんのいる笠松くんの班はワシらとや。鷲の目と鷹の目はバラバラにおった方がええしな」
「確かにそうじゃな。どっちから行こうかい?」
「お宅らが先でええわ」



すまんな、と岡村達が教室を出て行く。念のため、と火神と宮地、根武谷は椅子を1つずつ持つ。思い切り投げつければ気休め程度にはなるだろう、と思ってのことだ。また10分経ち、最後に今吉が教室の扉を閉める。教室に誰もいなくなった瞬間、作動していたタイマーの電源が切れたことは、誰1人として気付かなかった。

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