「ぴぇええええぇえん!!!」
「さぁ伯爵様の所に行こーなー!」
「ぷッなんだこのガキの泣き方!ハイハイ怖くないですよ〜ギャハハハハ!!」
「離せぇえぇっ!ぴぇええっ!くそったれぇぇえぇバカやろぉおおぉっ!!」



ティモシーがレベル3のAKUMAに捕まる。人形と化したリンクはレベル2に足蹴にされ、その場にバタリと倒れる。ティモシーの泣き声で意識が浮上したアレンは、耳につけている無線機でティモシーに呼びかける。リンクの服のポケットに入っていた無線機をティムが見つけ、ティモシーの元まで運ぶ。



「ぴぇええええぇえぴぇええええぇえ」
「泣くな…、ティモシ…ッ僕の声聞こえるか…?」
「!黒づくめ……!?」
「大丈…夫だ。すぐ助けに行く…絶対助けるからな…」



アレンはティモシーを安心させようと必死で助けに行く旨を伝える。腕に力を入れて体にムチを打ち、すぐにティモシーの元へ向かおうとするが、耳元で聞こえてきたティモシーの悲痛な泣き声に思わずハッとした。



「たすける……?おまえ゛らだってオレをどっかに連れてぐつもりじゃんかよぉぉ……ッそんなのたすけるじゃねぇ……たすけるじゃねぇよう……」
「……!」
「もぉメチャクチャだ、なにもかも……メチャクチャだよバカぁあぁ……!おでは……っ、ただ……っ、ここにいたがっだだけなのに……!!」





























「閉鎖!?そんな…何とかならないんですか?」
「もうだいぶ前から無理だったんです。なのにどんどん孤児を受け入れて……。もう諦めてください院長」



























ハースト孤児院に来て2年。オレは自分に目覚めた能力に気づいていた。ここの暮らしは面倒なことも多いけど、思ったより楽しくて。だから、能力はずっと隠してたし使う気もなかった。



でも、院長先生のあの辛そうな顔を見た時、この能力(チカラ)はオレの武器だと思ったんだ。……“怪盗G”。これは孤児院を救うためだ、悪いことをするんじゃない。こうしなきゃ弱いオレ達は幸せになれないから、いいことに使ってるんだ。そう思ってた。



「僕は、最低だと思うよ。キミのせいでGにされた人達のこれからの人生メチャクチャになるんだ。……最ッ低だよ」









あぁ……。そっか、オレ、同じことしてたんだ……。あの大人も、オレと同じキモチだったんだ。…………「たすけて」なんて……言えねェじゃん…………















ガウン!と銃声が響いた。レベル3のAKUMAの胴体に何発かの銃弾が跳ねる。AKUMAの前に飛び出してきたのはエミリアだった。必死に震える体を叱咤して、AKUMAの前に立ちはだかる。



「!?」
「その子を放しなさいッ!」
「!エミリア!?」
「放しなさいって言ってるのよ化物共!!」



エミリアがAKUMAの前に立っていられるのは奈楠のプロテクションのお陰もあるのだろう。しかし、その瞬間バチン!と空気が裂ける音がして、奈楠の加護を受けたプロテクションの効力が切れる。それに気付いたエミリアの顔はサッと青ざめる。けれど、それでもエミリアはAKUMAの前から退かなかった。懸命に発砲するが、所詮は拳銃。AKUMAのボディに効く訳がなかった。レベル3はエミリアに向かって腕を振り上げる。



「(……ッ!奈楠さん……!ティモシー!!)」
「やっやめろ…バカ…ッ死んじゃうぞエミリア!!」
「遅ぇよぉおおおぉん」
「ひきちぎって飛び出した内蔵で“ごめんなさい”って並べてやる!」
「やめろぉおぉおおおぉおおぉお!!!!」









なんでだよ



なんでエミリアが死ぬんだよ



「お前らぜったい……!!」



嫌だ



「ぜってぇ許さねぇえええぇ!!!!」
「ティモシ……」



嫌だ



ぜったい嫌だ!!!



その瞬間、ティモシーの額の玉が青白く光る。その玉からティモシーの意識が飛び出し、近くにいたレベル2AKUMAがロックオンされた。レベル2の意識はティモシーによって乗っ取られ、青白い光はレベル2の意識を飲み込む。レベル2に憑依したティモシーが、エミリアを殺そうとしたレベル3の手を縛る。突然前に飛び出して来て邪魔をしたレベル2に、レベル3は問いかける。



「おい……なんのマネだレベル2」
「……わんな……」
「……?」
「エミリアに触んな」



バチバチと音がするのをティモシーを抱えているレベル3は感じていた。次第にその音は強くなり、どんどんティモシーの体は青白い光に包まれていく。ティモシーに触れているレベル3のボディには電流が流れる。



「イテッ!お、おいっ何かピカッてるぞ!?なんか……なんかガキがどんどん青白く…………」











!!



「「!!??」」
【AKUMAにとり憑きとり籠んで、神化する。さぁ見したれ、これが“ツキカミ”の本領やっしゃ】



レベル2のボディが青白い光に包まれ、どんどん変形していく。パリンと殻が砕け、中から変形し終えたレベル2が出てくる。






神(イノセンス)化完了、憑神!!






「おぉおーっっ!!?変身したぁーっ!!」
「!!その声!?あんたティモシー!?」
「てかオレコイツらにも乗り移れんのかーっ!」
【アホ!前見ぃ前ッ!!】



驚いているのも束の間、レベル2の異変に気付き目の前にいるのはAKUMAではないと悟ったレベル3がティモシー達に向かって攻撃を繰り出す。間一髪でエミリアを抱き抱え、リンクも拾ったティモシーは飛び上がって攻撃を避ける。エミリアはふ、と自分を包む温もりに気付く。ティモシーのものではない。体を見れば、薄い保護膜。プロテクションだった。その事実にホッとする。



「(あ……!プロテクション?が元に戻ってる……。奈楠さん、無事だったんだわ)」
「危なッ!」
「あんたホントに変な能力あったの!?」
「アホって言った今!?」
「言ってないっつの!アホとは思ってるけどっ」
【こっちやこっち】
「!」
「ティモシー?」






















『!イノセンスの気配……。ッティモシー!』



リンク達がいるであろう孤児院へと向かっている奈楠。走っている途中で感じた幽かなイノセンスの気配。ティモシーがイノセンスを発動させたのだと気付く。このまま走っていては間に合わない!と“跳ぶ人”を発動させる。



『“瞬間移動”!!』



奈楠が現れたのは丁度ティモシーがレベル3に蹴飛ばされる所。自分に向かって一直線に飛んできたティモシーを、奈楠は寸止めで抱きとめる。“跳ぶ人”を発動していたおかげで壁に激突することは無かった。え?とポカンとして振り返ったティモシーにニコリと微笑む。



「みっ見えねってなんで?…………って、ね、姉ちゃん!!?」
『遅くなってゴメン。ティモシー、Ms.エミリア』



奈楠がティモシーを下ろして前を向けば、ティモシーの前にいる憑神とバチッと目が合う。キョトンとした憑神は次第に驚いたように奈楠をまじまじと見つめる。



【…不思議な姉ちゃんやなぁ…ワイが見えるんか】
『……か、関西弁……。……えぇ、そうね。見えるし聞こえるわ、イノセンス』
【……まぁ、置いといて…………説明したってもエエけど、そんな場合か?】



ぴた、と動きを止めるティモシー。先程の憑神の言葉と奈楠の言葉を思い出す。ある単語に引っかかっていた。



「……今、“いのせんす”って言った?オレの能力は、いのせんすなの……?」
「!……イノセンス……」
『…………、』
【そや。今のおまいの姿が証やろ】
『(……ねぇ、“紅”。“紅”達はツキカミの姿が見えるの?私にも見えてるんだけど)』
【えぇ、見えますよ。声も聞こえますし。……まぁアチラはこちらの事を認識出来ていない様ですが】





















ティモシーは、目から溢れ出てきた涙を堪えた。止めても止めても出てくる涙を、何度も止めた。グッと息を堪え、意を決して立ち上がる。



「……っ、ねぇ、……えーと……」
【好きに呼びやっしゃ、マスター】
「じゃあツキカミ。……コイツらの倒し方教えて」





















見える、聞こえる

(強くあれ。大切なモノを、守る為に)
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