『ったくもー、私みたいな弱っちい元帥にこーんなにレベル4寄越しちゃってさ!伯爵ってば愛情表現苦手なんだから!』
【そういう問題ですかね、主様……】
「よゆうかましていられるのもいまのうちです」
「こくびゃくからのらいほうしゃ……」
「もうひとつのよげんは“かみのしんぞうのせんどうしゃ”。……奈楠・本多っっ!!」
『なんっでAKUMAが私の予言を知ってんだっつの』



アレン達と分かれた後、奈楠は1人孤児院の外の空間に出ていた。奈楠を取り囲んでいるのはレベル4数十体。禍々しい殺気が全身に突き刺さる。地面に膝をつきたくなるのを堪え、イノセンスを構えた。自分の予言を口にするAKUMAに違和感を覚えたのは事実だった。この予言はへブラスカやコムイなど、教団の人間しか知らない筈だ。本当に、何故……。深く考えても仕方のないことだ、と首を振った。まずは目の前の敵から……と真剣に前を見据えた。



『っかしいなぁ…原作だとレベル4は1体だけだったと思ったんだけど……。……まぁ、いっか』



どうせ直ぐ全部破壊するんだし、一体も何十体も同じだろ。そう言い放ってレベル4を見る。その言葉が始まりだった。次々と繰り出される攻撃を難なく避け、奈楠は高く飛び上がる。“紅”を発動させ、両方の刀を宙に放り出した。



『“紅”、第二解放……“分裂(ディヴァイジョン)”!!』



その瞬間、二本の刀は一気に何十本もの小さな短刀に分裂し、そのままレベル4に真っ直ぐに突き刺さる。抜いては刺し、抜いては刺しの繰り返しでレベル4は痛みを癒す時間も与えられなかった。次々と自身を襲うイノセンスの強烈な痛みに叫ぶばかりだ。見れば、奈楠は右手の人差し指と中指をあちこちに動かしている。どうやら遠隔操作で“紅”を動かしているらしい。数分の後、“分裂”の餌食となっていたレベル4が次々と爆発していく。そうして残ったのは半分だった。ここまでものの数分。接近戦を得意とする奈楠にとってここまでは前座。AKUMAを破壊している感触を楽しんでいる奈楠の顔はニタリと歪んでいた。



『ふふ……、この程度?もっと私を楽しませてよ』



奈楠の中に混じるふとした時に見せる狂気が、垣間見えるようだった。“紅”を収め、“水龍”を発動させようとした奈楠。手首の聖痕が目に入り、“跳ぶ人”でレベル4を蹴散らしながら“治癒の祈り”に話しかけた。



『治癒。1つ、確認したい事があるんだけど』
【?何でしょう、主】
『治癒、貴方…本当は“装備型じゃない”でしょう?』
【…………、】
『前々から変だとは思ってたの。装備型みたいに武器や道具はない。ただ、手首に聖痕が浮かび上がっていて、それが光って発動する。……装備型としては可笑しいじゃない?』



戦闘中にも関わらず饒舌に問いかける奈楠に対し、“治癒の祈り”は無言を貫いていた。口を開かない“治癒の祈り”に、奈楠は苦笑いを浮かべる。無言は肯定。そう受け取るよ?と心の中で問いかけ、更に疑問を投げかけた。



『ねぇ、どうして?…どうして今まで私に、“貴方の本当の使い方をさせなかった”の?』
【…………、……ッははは、……はは、ははははは!……完敗ですよ、主。……甘かったなぁ…気付かれてるなんて、思わなかった】
『戯言はいいわ。さっさと説明して』
【……“死んでしまうから”ですよ。……主がお気付きの通り、俺は装備型じゃない。……“寄生型”です】
『寄生型だろうっていう察しは付いてた。でも、何故それが“死”に繋がるの?』
【俺の能力は、その名の通り“治癒する事”。俺と主が“治癒の祈り”を捧げることで、あらゆる万物を、対象を、癒すことが出来る。……でも、それには多大な代償が必要になる。…主の、“氣”です】
『……私の、“氣”?』
【はい。俺は、主の体に流れている“氣”、すなわち精神や気力に寄生しています。主が強く望めば望むほど、俺の力は強大になる……】
『強大になればなるほど代償が必要になり、私の中の“氣”が対象物に流れ込み、最悪の場合“氣”が足りなくなって私は死に至る……そんな心配をしたわけね?』
【一定時間休養すれば主の“氣”は簡単に回復する事くらい分かっています……!でも、貴女は絶対に自分の体を顧みない…!俺は知っている!】



なるほどね……、第3解放した反動で何日間も眠らなきゃならない訳がそれって事か、と一定時間の意味を捉えた奈楠はふ、と口角を上げた。どうしてこうもこの子は自分の身を案じてくれるのだろうか。それはとてつもなく嬉しいことだが、イノセンスの力を100%引き出してくれないと困るのはこちらなのだ。守りたいものを守れやしない。



【主は自分に絶対に“プロテクション”を使わない…!教団の人間を守ることに命をかけてるから…ッ!本当の“使い方”を教えてしまったら、気付いてしまったら、貴女は、自分の命を捨ててでも他人を助けるでしょう…ッ!?】
『……………はぁあぁぁ………………バッカじゃないの』
【……ッ!?】
『私が教団の皆に命かけるなんて当たり前じゃない。何をそんな今更』
【ッですから、俺は主に『死んで欲しくないから…って?』……ッ、】



あまりに今更過ぎて奈楠は思い切り溜息をつく。そんな奈楠に“治癒の祈り”はビク、とする。この世界で生きていく覚悟も、死んでいく覚悟も出来ている。何を今更、躊躇する必要があるのだろうか。心配してくれるのは有り難いが、するだけ野暮というものだ。



『……見くびらないで。私の存在意義は皆を“守る”事。私の精神は柔じゃない。そう思ったから、貴方は私を選んだんでしょう?……だったら、私に貴方の全てを差し出しなさい。私の心配をせずに、私に遠慮せずに、貴方の持てる力の全てを私に貸しなさい。……それが、私と貴方の生きる道なんだから』



少ししょぼくれた様にしている“治癒の祈り”にフ、と笑った。それでもキチンと了承の返事をする辺り、信頼してくれているんだな、と安心する。少し嬉しくなれば、奈楠は心配してくれた事に対し、感謝の意を表した。



『……私を心配してくれて、ありがとう』
【ーッ!!主ぃいいぃいいい!!!】



実体化していたら奈楠に抱きつかんとする勢いで飛びついていただろう“治癒の祈り”。とてつもなく喜んでいるのがひしひしと感じられる。奈楠にお礼を言われるのが、猛烈に嬉しかったようだ。そんな“治癒”に苦笑しながらも、奈楠はレベル4を殲滅していく。奈楠が通った場所には、レベル4の残骸が無残にも転がって道標となっている。自分は何時からAKUMAを無情に破壊するようになったかな、と考えてみても無駄だった。





















【(主が望めば望んだだけ、俺の力は具現化する。主の心によって、俺の力は強弱を変える。願えばいつだって、その程度を変えられる)】



これで良かったのだ、と“治癒”は自身に言い聞かせた。奈楠が納得し、満足した答えであるのなら、それがどんな結果を産もうと最善なのだと信じて疑わなかった。だって主は、俺の全てなのだから。もう一度、貴女に忠誠を。























『“氣”……か。……だから気絶したりすると“治癒の祈り”の効果が切れるのか……。なるほどねぇ……』



てことは、使いようによっては無敵の防護壁になるってこと……?最終的には自分の心の強さに比例するけれど。“治癒の祈り”からの科白を聞いた後、そう考えて奈楠はニヤリと口元を歪めた。



『最高じゃんか』



皆を守る力が増えたことを感じ、心が震えた。

























本当の姿
prev next

back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -