「ティモシー?ティモシーッ?……もぉっ、勉強の時間になるといなくなるんだから!ティモシーーーッ」



閑静な住宅街、雪が降り積もった朝、ハースト孤児院にエミリアの声が響く。それは、ティモシーを呼ぶものだ。当の本人のティモシーは、孤児院の屋根の上で寝そべっていた。




















「寄付が!?」
「ええ、院長先生。匿名で今朝。それも凄い金額で」
「まぁ……」
「ここの閉鎖を聞いて是非力になりたいと手紙が……」
「今時奇特な方がいるものですねぇ」



















“ガルマー警部、Gから国宝見事死守!”



ティモシーが手にしていたのは昨夜の騒動が書かれた記事。ガルマー警部が誇らしげに王冠を頭に乗せてポーズを決めている写真が目に入れば、眉を顰めて悔しげに記事を投げ捨てる。



「ちぇっ、黒ずくめのアイツらさえいなけりゃもっと稼げたのに。……しっかし何だったんだ?アイツら。オレと同じで変な力持ってたし、……あの姉ちゃん、大丈夫だったのかな」
「………ベンキョーの時間でーーーーす……」



ふと昨夜の事を考えていれば、後ろから感じた殺気にも似た気配にティモシーはぞく、と震える。ギギギ、と後ろを振り返ればティモシーを捕まえんとして屋根まで上がってきたエミリアの姿があった。思わずティモシーはその場から逃げ出す。



「まちなさいティモシィィイイィ!!」
「ベンキョーなんかしなくたって死なないもん!!」
「「鬼ごっこだー」」
「捕まえられるもんなら捕まえてみろ女ガルマー!」
「上等じゃないのッ!!」
「「鬼ごっこー」」

























所変わってハースト孤児院前。そこには、奈楠達エクソシスト1行の姿があった。マリが辿った泣き声を頼りにやって来たらしい。



「ホントにここなの、マリ?」
「あぁ。昨夜のGの泣き声はここで途絶えた」
『ここかー……えっと、ハースト孤児院…』



「必ッ殺ッ!オッパイ落とし ー!!」
「キャー!!!!!!」
「ティモシーさいてーっ!」
「かっかっかっかー」
「……っ、このぉ……」



アレンはハースト孤児院のドアを開ける。少し機嫌が悪いようにも見える奈楠の顔を見て、笑いながら問いかけた。



「奈楠、まだ昨日のこと気にしてる?」
『っ、し、してないよ……(…くそ…、私としたことがティモシーに乗り移られる何て…!…修行足りないなぁ…いやでもあれは王冠が危なかったんだから仕方ないよね…うん)』
「本当ですかー?……すみませ……」
「エ、ロ、ガキィイーーッッ!!!!」



ゴッ!!!と何かと何かがぶつかる音がした。何が起こった!?と辺りを見回せば道に倒れるアレンと少年の姿。どうやら飛んできたティモシーとアレンの額がぶつかったらしい。エミリアの飛び蹴りを見た奈楠達は呆然としている。事の重大さに気付いたエミリアが、我に返っておろおろとする。



「わーーーーーッ、いけない私ったら!またパパ直伝の護身術を……!!!」
「出たー!エミリアの殺人キック!」
「かっけー!」
『めちゃくちゃ惚れ惚れする殺人的な足技!』
「「「………………、」」」



転がっているアレンの元に向かい、大丈夫かと奈楠とリンクは声をかける。すると、アレンは額に手を当てながらなんとか起き上がってきた。



「いってぇ……」
『すっごい音したけど……』
「何やってんですかキミは」
「ん?」



違和感に気づいたのか、アレンが疑問の声を上げる。額から手を離した彼の手にはめた手袋には、ドロッと血がついていた。アレンの額はパックリと切れ、そこからドンドン血が流れ出ている。リンクは驚愕した表情になり、奈楠は慌てて“治癒の祈り”でリカバリーをかける。



「えぇっ、」
『うっそ、本当に大丈夫!?…リカバリー』



リカバリーのおかげで何とか血は止まるものの、アレンは血がついた左手を見つめながら呆然として微動だにしない。その横ではマリがティモシーを抱き起こしていた。神田はティモシーを見て少し驚きの声を上げる。



「大丈夫かキミ?」
「!オイまて!」
「?どうした」
「あぁ、盲目のお前はすぐわかんねェか。この子供……、頭に玉がはえてる」
「タマ?」



アレンとぶつかった時の衝撃で取れたらしいティモシーのバンダナ。それは、額についていた玉を隠すためのものだったらしい。玉がついているとなれば、アレンの額がパックリと切れてしまったのにも頷ける。奈楠は、全く動かないアレンの目の前に手をかざしたり肩を叩いたりとしていたが、徐ろに自分の団服を掴んできたアレンに違和感を覚えた。



『?アレン、どうし……』
「ぴぇぇえええぇえぇ!血がぁ!死ぬぅうぅ!!」
「「「『!!!?』」」」
「ウォ、ウォーカー!?」
「……おいマリ……」
「あぁ……昨夜のGと同じ泣き声だ……」



奈楠に抱き着いて泣き始めたアレンを奈楠とリンクはギョッとして見つめる。そんなに痛かったのか……!?と考えている奈楠は、昨夜のGの泣き声を聞いていない。気付いていないようだ。よしよし、とあやす様にアレンの背中を撫でる奈楠。リンクは奈楠からアレンを引き剥がし、肩をガッと掴んだ。



「えぇい!それくらいで泣くな情けない!!」
『あっれ……、そういえば確か……』



あぁ…アレンとティモシーが入れ替わってるんだっけか、とようやく思い出したらしい奈楠。これは面白いネタになるぞ、とリィムで動画を撮る。ニヤニヤとしている奈楠に気付いている者は誰もいなかった。



「あれ?」



疑問の声を上げてリンクの瞳を見るアレン(もといティモシー)。漸く自分がアレンと入れ替わっていることに気付いたようだ。自分の体を探し、オロオロとしている。そんなアレンをリンクはパチクリと見つめる。



「…………」
「オ、オレの体は……!?」
「これか?」
「あー、それそれー………………っ、」
「また会ったな怪盗G?」
「え?」



神田の口から出てきた“怪盗G”という言葉にエミリアは驚いた顔をする。当たり前だろう。自分が面倒を見ている孤児院の子供が、得体の知れない黒ずくめの男から怪盗呼ばわりされるのだから。神田は気を失っているティモシーの体を持ち上げて、首に六幻を突きつける。実に悪徳的な笑み(だがしかしもはや笑みとは言えない)でニヤリと告げた。



「さぁ白状してもらおうか?この体を綺麗なままで返して欲しかったらなぁ…」
「ひっ!!」
『ちょ、神田!流石にそこまでは……!』



奈楠の静止も聞かず、オラオラと挑発しながら神田はティモシーの首に当てた六幻に力を入れる。ザク、とそこから血が飛び出した。



「ヤメローーッ!」
「ちょっと!何やってるの!?」
『っとに……!こんのバ神田!!!』



奈楠はすぐさま神田からティモシーの体を取り上げ、リカバリーをかける。浅い傷だったらしく、直ぐにふさがった。ティモシーを取り上げられ少し不機嫌な神田を叱り、奈楠はエミリアに向き直る。



「!あ、貴女は昨日の……!」
『こんにちは、Ms.エミリア。今回の非礼をお詫びします。院長先生とティモシー君にお話があるんです。……お目通り願えますか?』
「、す、少しお待ちください……!」



昨日と同様の奈楠の紳士的な態度に少し頬を染めたエミリアは、すぐさま孤児院の中へと入っていく。不安そうな顔で奈楠を見上げたティモシーに、奈楠はニッコリと微笑みかけた。



『…大丈夫だよ』



















ハースト孤児院

(一体いつから思い出せなくなったのだろう)
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