「奈楠!?」
「一体どうしたというんですか!」
『うふふvVこんばんわ、オニーサン達ッッッ!!』



そう言いながら奈楠はアレン達を蹴りつける。王冠を持っているアレンに狙いを定めたのか、奈楠は勢いよくアレンとの間合いを詰め、至近距離で蹴りを撃ち込んだ。奈楠の脚はアレンの頬に直撃し、ドガ!と大きな音がした。



「げっ……!」
「ウォーカー!」



蹴りの反動で屋根から落ちそうになるも、なんとか足を踏ん張りアレンは動きを止めた。耳につけた無線機から、少し焦ったようなマリの声が聞こえてくる。ぺッ、と口の中の血を吐き出した。



「どうしたアレン!?」
「マリ、奈楠が……」
「奈楠か?奈楠がどうした?」
「やっぱり凄い強いんだけど……」
「は?」



撃ち込まれた蹴りの威力は半端じゃなかった。中身を乗っ取られたからか、普段の奈楠からは考えられない程容赦ない攻撃が飛んでくる。イノセンスは発動出来ないのか、まだ素手での攻撃のみだが、既に奈楠は屋根の一部を足技だけで破壊していた。



「やっぱり元帥になるだけあるよね……」
「わかるように言ってくれアレン」
『ヒュー!なによこのオネーサン超ハイスペック!しかも……、オッパイでかい!!!』
「「「!!!!??」」」



奈楠の口から出た言葉に体が固まった。奈楠ではなくGが言っていることだと分かっているのに、それでも顔に集まる熱をアレンは隠しきれなかった。



「…奈楠がGに乗っ取られたっポイ」
「……みたいだな。今聞こえた」
『さぁ、ワタシの王冠返して?オニーサン』
「……奈楠にそう呼ばれるのはちょっとなぁ……」



そう言いながらアレンはティムの口に王冠を入れる。戦闘中はティムの口の中が1番安全だと考えたからだ。



「返したらキミ逃げるでしょ?それは困るんですよねー………“僕ら”はキミを捕まえに来たんですから」
『!!!』


後ろから感じた気配に奈楠(もといG)はその場から飛び上がる。そこには、六幻を構えた神田がいた。中身はGでも、あくまで憑依されているのは奈楠の体であることを考慮しているのか、中々刃を向けることはしない。だが、Gの不意をつくことは出来たようだ。奈楠の後ろには、リンクが立っている。それに、G自体は気づいていない。



「秘術“縛羽”………」
『(!体が重くなった!?)』
「縛!!!」



リンクが放った術札が奈楠の周りを取り囲む。体が重くなったことを感じたGは、とっさにその札の中から抜け出す。その札をみたアレンは3ヶ月前のことを思い出す。



「(!あの術は、以前に僕と奈楠を拘束した時の……!)」
『危なーーッ!!』
「ちっ、お前“鴉”だったのかよ」
「カラス?」



神田の口から出た聞き覚えのない単語にアレンは首を傾げる。リンクは淡々とその説明をした。



「中央庁御抱えの戦闘集団のことです」
「よく知らねェし興味もねェが、ガキの頃から“教育”されたとかでムダに戦闘能力が高い奴らだ」



神田とリンクが睨み合うようにして視線を合わせる。





















「おい、どうなってんだ!?」
「!」
「こっちのG……お前警官じゃねェか!」
「じ、自分でも何がなんだか……ッ!王冠を手に取って、それからの記憶が……」
「ふざけんな!!!」
「私じゃない、私じゃないんです!信じてください違うんです……ッ!私じゃないんだあぁああぁああ!!!」



そんな喧騒の中、場違いな笑い声が響く。無邪気にも聞こえるその笑い声。奈楠に憑依したGのものだった。



「なにか面白い?」
『ん?だって、おかしいでしょ!大の大人があんな風にさ』



あはは!と笑うGに、苛立っていたのは事実だった。Gにされた人々の事を考えてもGがしてきた行いは許されるものではないし、なにより今、自分の目の前で奈楠が乗っ取られているという事実に、1番苛立ちを感じていた。



「キミ、まるで子供みたいだね。僕は最低だと思うよ。キミのせいでGにされた人達のこれからの人生メチャクチャになるんだ。……キミ、最ッ低だよ」
『……うるさいッ!!!!』



自分の全てを否定されたように感じたのだろうか。瞳を大きく開いたGは青筋を立ててアレンに向かう。アレンと神田はイノセンスを発動させて武器を構える。リンクも術札を展開させて戦闘体制に入っている。奈楠に武器を向けるのは正直とても避けたい事だったが、緊急事態だしょうがない、と3人は心に言い聞かせたのだった。無線機からマリの声がする。



「いけるか?」
「中身はゴーストでも相手は奈楠だ。本気で行かねーと返り討ちに遭うだけだぜ。……マリはそのまま控えて集中してろ」
「奈楠に傷1つでも付けたら許しませんから!」
「たりめーだ!誰が傷つけるかよ」
「いきましょう。ウォーカー、神田ユウ」



3人がかりで攻撃しても勝てるかどうか……。それくらいに奈楠は強いのだ。いくら中身がGといえど、その身体能力は奈楠のままで変わらないのだから厄介だ。



「道化ノ帯…………ッ!?」



道化ノ帯を伸ばして奈楠を捕まえ、動きを封じようとしたアレンは目を見開く。Gが、奈楠の“跳ぶ人”を発動させているのだ。憑依した人物のイノセンスでさえも自在に操れるのか、と少し焦る。奈楠は伸ばされた道化ノ帯を難なく避けて宙に浮く。リンクが秘術を使おうとしても、これまた難なく避けるのだ。



「1度奈楠の身動きを取れなくしないと!」
「チッ…………、」
「全く、身軽な人だ……ッ!」



どうすればいい、とアレン達は必死に考えを巡らせる。ふと視界に入ったティムキャンピー。何かを閃いたアレンはリンクと神田に耳打ちで話す。その様子をみたGはケラケラと笑う。



『なーに?ワタシを捕まえるための作戦会議?』
「そうですね……そんなところです………よッッ!!」
『!王冠ッ!?』



返事をしながらアレンは王冠を宙に放り投げる。あれだけ死守していた王冠をぞんざいに扱ったアレンにも驚いていたが、なにより王冠が壊れてしまうのではないかと、Gは焦っていた。すぐさま王冠が落ちていった方向へと走る。しかし、そこには王冠を持ったリンクの姿。



『え、ちょ、いつの間に……ッ』
「まんまと引っかかってくれましたね」



嬉しいですよ、と眉一つ動かさずに淡々と話すリンクに、Gは苛立ちを覚える。注意力が散漫になっていたのだろうか。Gは背後のアレン達の動きに気付かなかった。後ろから聞こえた声に気付いた時にはもう遅く、両腕は白い帯で拘束されていた。



「道化ノ帯!……もう逃げられませんよッ!」
『!?ッ放せぇええぇッ!!』



手首の拘束を解こうと必死になって暴れるG。しかし、ジタバタともがけばもがくほど、道化ノ帯は奈楠の体に巻きついていく。アレンはニコッと笑って奈楠の背後へと回った。



「(ごめん奈楠!本当はこんなこと、キミには絶対にしたくなかったんだけど!!)」
『あ…………、え………………?』



イマイチ状況が飲み込めないのか、Gは呆然とする。奈楠の体を貫いている大剣。そう、アレンは退魔ノ剣を奈楠の体に刺したのだった。



『ナニこれ………………?』
「剣だよ。キミは刺されたんだ」









『わぁあぁぁぁあぁあぁあぁぁ剣がっ、剣が刺さっ!?わぁあぁあぁぁ!!!!!』








うぎゃああああ!と頭を抑えながら絶叫するGを見て、アレンは少しだけ罪悪感を覚える。だがまぁしかし、作戦の為だ。致し方ない。



「(なんちゃって★僕の剣じゃ人間は傷つけられないんだけどね。でもまぁショックを与えるには充分……ちょっとやり過ぎな気もするけどゴメンネ)」
『うぇっ、ぴっ、』
「(ん?)ぴ?」
『ぴぇっ、ぴぇえええ……ッ』



「!!!!??」



突如特徴的な声で泣き出したGに、アレンはギョッとする。人前で泣くことが無い奈楠が、泣いているのだ。驚くのも無理はないだろう。久しぶりに奈楠の泣いている姿を見たアレンは、心の中で可愛いなぁ、と思ってしまう。



「奈、奈楠……?」
『痛いよーッ、痛いよー!!!』
「(奈楠のキャラが崩れていく……でも可愛いな……)痛くない痛くない!この剣人間には効かな……」
『お前たちのせいでこの姉ちゃん死んじゃったんだぞーッ!?人殺しぃーーーっ!!!!』



そう叫んだと思えば、不意に奈楠の体はガクンと崩れ落ちた。それをアレンが慌てて支える。崩れ落ちた奈楠を見て急いで神田が傍にやってきた。



「わっ!」
「オイ、奈楠!?」
『う…………、アレン…、神田……?』
「奈楠?元に戻った?」



まだボーっとしているらしい奈楠は、焦点の合わない目で宙を見る。しかし、目線を下げれば自分の体を貫いている大剣が目に入り、さぁああっ……と奈楠の顔の血の気は引いていった。



『ッやだやだやだ!!何で私刺さってるの!?』
「「!?」」
『なんかゾワゾワする…ッ!ア、アレンお願い…!早く抜いて……ッ!!』



アレンを見上げて必死に懇願する奈楠。足に力が入らないのか、地面にへたりこんだままだ。アレンと神田は涙目の奈楠に何か感じるものがあるのか、珍しく2人して顔を見合わせている。



『アレン、早く……ッ』
「!あ、ゴメン!」



そう言って、アレンはズル、と奈楠の体から退魔ノ剣を引き抜く。剣を引き抜かれる時、奈楠は自分の体を覆う未知の感覚を振り払うように、アレンの服にしがみついていた。



「逃げたか……、どうだマリ。追えるか?」
「正体を暴く為とはいえちょっとやり過ぎたかな……」
『本ッ当に吃驚した……。リンク、王冠は無事?』
「この通り。キズ1つありませんよ」
「いや、あれくらい取り乱してもらった方が見つけやすい。Gにもちゃんと感情があるみたいで助かった」



マリはヘッドホン越しに耳をすませる。神経を集中させて目を閉じれば、その特徴的な泣き声が耳に流れ込んでくる。少しだけ、口角を上げた。



「泣き声も特徴的で助かる」

憑依されたエクソシスト
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