「なぁアレン……。そういや初めて聞くが、お前ティムは好きか?預けると言って渡したが……、初めからお前にやるつもりだった」



雪降る夜。怪盗Gを捕らえるため、予告状で示された場所に奈楠達は集まっていた。神田とマリ、奈楠とアレンとリンクの二手に分かれて待機していた。

アレンが再生しているクロスの音声をジッと耳を澄まして聞く。そこには、沈黙が流れていた。



「ティムにはもう自由にしていいと言ってある。“14番目”の意思を継いでいる俺の言葉なんぞ聞きたくないかもしれんが、もしお前が俺や“14番目”に決められた道を歩かされてるんだと思ってんなら……違うってことだけ言っときたくてな」



まるで、自分にも言っているのかと錯覚しそうになった。けれど、これはアレンに対して言っているのだ……と言い聞かせた。



「道は歩いた後に出来るもんだ。踏みしめられた土が堅くなり、跡と残って道に成る。自分の歩く道を作れんのは自分だけだ。だから、もう“マナ”の仮面を被るのはやめろ。歩け独りで。まだ諦めてないんなら」



アレンはマナとの時間を思い出す。そして、船に乗っている時にジョニー達に言われた言葉。



(よく見ると、キミも痣だらけじゃないですか)
(アレンて近頃オレらと話す時敬語が外れてきたよな)



目に、手のひらを当てた。そうすれば、脳裏に浮かぶのは“マナの仮面”をかぶった自分の姿。続いている道にいるのは、自分独りだった。



「……独りで、じゃないな。きっと、お前が進む道には、奈楠が居てくれる。奈楠には悪いが、お前のことを頼んであるからな…。奈楠、どうせ其処に居るんだろ?アレンを、頼んだぞ」
『…何ッ回聞いても遺言にしか聞こえない……。腹立つな〜、もう』
「本当だよ」
「ちがうんですか」
「『だって“あの”師匠にこんなの似合わなすぎる』」



そう言ったアレンは、タン、と立ち上がる。



「うん。道は決まってない!自分が、作る」



それに、奈楠が居てくれるからね!と奈楠に笑いかけたアレンを見て、奈楠は眉を下げて笑った。言われなくても、可愛い弟弟子だ。傍にいないわけがない。



「という訳でリンク、これ最後のドーナツ食べてもいい?いいよね?」
「キミ何個目ですか!私と奈楠はほとんど食べていませんよ!!?」
『アレン…3人で分けようよ』
















奈楠の笑顔を見て、少しだけ心がズキンと音を立てた。……奈楠は、師匠が居なくなってから心から笑うことが少なくなった。悲しそうに、笑うのだ。奈楠の心を癒すことが出来るのは、師匠とリナリーだけなのかと考えて、とても悲しくなった。



「ウォーカー?こころなしか私の取り分が少ない気がするのですが」
「えー、リンクの気のせいですよー」
『(リンクも甘いの好きだからなぁ)』
「食い意地張り過ぎです!」
「お腹空くんだからしょうがないでしょー!」
『あぁもう落ち着きなって』

















「……ふ」
「どうしたマリ。何か聞き取れたのかよ?」
「あ、イヤ……。問題ない……」



マリは、ヘッドホンから聞こえてきた奈楠達の声に少し口角を上げる。その表情は酷く優しげだ。そんなマリの様子に疑問を感じた神田が、マリに問いかけたのだった。



「聞こえるか?奈楠、モヤシ」
『ひほえるー(聞こえるー)』
「ファレンれすが(アレンですが)」
「食うのをやめろ、そろそろ時間だ。みすみす警察に獲物とられんじゃねーぞ」
「獲物じゃなくて怪盗Gだ、神田」
「『りょーかいっ!』」









午前0時・Paris・ルーブル美術館









国宝「リージェント」のもとに









参上する









怪盗Gより

立ち止まるな、歩き続けろ
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