“跳ぶ人”と“紅”の力を披露したところで、今日のところは一先ず終わりだ、と言われた。こんな時間だし、と言われて時計を見れば早くも午後7時を過ぎるところだった。相当集中していたらしく、お腹が鳴った。


「食堂行ってこいよ!そしたらもう後は明日だからさ!」
『了解でーす。今日はお世話になりました!』
「おう!また明日な〜」


リーバーに見送られて、科学班フロアを出た。指令室からコムイの悲鳴が聞こえてきたのは、きっと気のせいだろう。


てくてくと歩けば食堂につく。ほとんどの者が任務に向かっているのか、食堂に人影は疎らだった。ジェリーの元へ行き、注文をする。


『ジェリーさん』
「あら、奈楠!朝ぶりね〜!何食べる?」
『……んー、親子丼と天ぷら蕎麦とAセットとシーフードサラダと牛丼と鯖の味噌煮とご飯とお味噌汁とデザートにバニラアイス!あ、あと紅茶!』
「オッケー!おまちどん!」
『ありがとジェリーさん!』


満面の笑みで奈楠は料理をカートに乗せる。運良く端の席が空いていたので、そこにカートを付けて料理をテーブルに置く。全て乗せ終わった所で、奈楠はいただきます!と言って食べ始めた。


一人であることをいい事に、今日一日のことを思い返す。


割と仲良くなったとは思うのだ。自分がそう思っているだけで、相手がどう思っているかは分からないけれど。…ただ、警戒されているとは思う。来て直ぐに皆と仲良くなれ、というのは酷な話だ。もう少し頑張るか、と食べながら気合を入れた。


……単に、私は馴染みたいだけなのだ。…助けたい、だけなのだ。戦争という悲劇に巻き込まれた、この教団の人々を。分かってくれ、など野暮なことは言わないし言う気も無い。ただ少しだけ、…ほんの少しだけ、信じて欲しいと思っていた。信頼無くして人は、守れないのだから。この、沢山の笑顔を。


柄にもない。自分はこんな人間だったのだろうか、とふと思った。別に元の世界に未練があるわけではない。自ら望んで来たのだからしょうがない、とも分かっていた。でももし、一生ここで過ごすことになったら?戻ることが出来ないなら?とも考えるのだ。残してきた家族のが脳裏に浮かんだ。本当の家族ではなかったけれど、暖かかった。ただ、それだけが心に残っていた。


ブンブン!と頭を振る。感傷に浸っていても仕方がない。今出来ることをやればいいのだ、と考えた。残りの料理を全て平らげ、ごちそうさま!と言って食器を戻す。ジェリーに別れを告げて、自室へと戻った。


そんな彼女をジッと見つめている人影があったことを、奈楠は知らない。否、気付かない振りをしていたのだった。

悲劇を喜劇に変えてみろ
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