ーーーA.M.8:00。科学班班長であるリーバー・ウェンハムは、奈楠の部屋の扉をノックしていた。朝から彼女には色々と予定が詰まっている。食堂へ行き、朝食を食べる。次に科学班フロアへと向かい、団服の採寸と身体検査。そして、イノセンスの検査。さらに教団内部の案内…。新たな仕事に、思わず眩暈がした。…取り敢えず、起きてくれていればいいのだが。


「…オーイ、奈楠、起きてるか?」


部屋の中に声をかければ、ガチャ、と開く扉。少し目線を下げれば、そこには昨日と同じ姿の奈楠がいた。改めて見てもやはり小さく見える彼女は、年不相応の雰囲気を持っている。リーバーが来る大分前から起きていたらしく、不思議そうにリーバーを見つめていた。


『…おはよう、ございます…。…えっと……』
「おはよう。俺は科学班班長のリーバー・ウェンハムだ。室長から聞いてるとは思うが…、今日から忙しくなるぜ?まだ教団の事は分からないだろうからな、迎えに来たんだ」
『…ありがとうございます!』


少し笑って返事をした奈楠につられて笑う、部屋から出てきた彼女と共に、廊下を歩く。食堂に着くまでの道すがら、二人はたわいもない話をしていた。


食堂に着けば、ガヤガヤとした雰囲気が伝わる。興味深そうに奈楠をチラチラと見る輩もいれば、コソコソと話しをする者もいる。そんな連中をものともせずに、奈楠はリーバーの後ろを着いていった。


「よー、ジェリー。おはよう」
「あらん?リーバーじゃなぁい!珍しいわね?こんな時間に来るなんて」
「新入りを紹介しに、ちょっとな」
『…お、おはようございます!新しく入団した、本多奈楠です!よろしくお願いします!』
「あらまー!礼儀正しくて可愛い子ね!!何食べる?何でも作っちゃうわよ?ア・タ・シ!!」


何時も通りのテンションのジェリーと少し引いている奈楠の様子にリーバーは若干苦笑いしつつも、奈楠に注文するように促す。そして奈楠は少しだけ考えて、


『…じゃあ……、グラタンとエビドリアとシーフードサラダとオムライスとカルボナーラとハンバーグとカルパッチョとナシゴレンと、ご飯と豆腐の味噌汁と鯖の塩焼きにカレーライス。それとデザートにパンケーキ15枚で』
「アンタそんなに食べるの!!?」
「多いな…。俺はコーヒーとサンドイッチ頼むわ」

そんな細っこい体によく入るわねー!と、とても驚いているジェリー。リーバーも同様だった。


『……昨日から何も食べてなくて、すごくお腹すいてるんです』


よろしくお願いします、と奈楠はぺこりとジェリーに頭を下げた。それを見たジェリーは目を輝かせて、猛スピードで料理を作っていく。数分後、奈楠の目の前の机には注文したすべての料理が乗っていた。その速さに奈楠は呆然としていた。そんな奈楠の反応を知ってか知らずか、ジェリーは奈楠の両手を握り、


「今までアンタみたいに丁寧に頼んでくれる人なんていなくって……!アタシホントに嬉しいわ!!奈楠の為なら何でも作っちゃう!!!」
『…ありがとう、ございます…。…ジェリーさんの料理、大好きです』


んまーーー!!!と、ジェリーは目を輝かせて奈楠の手をブンブンと振った。よほど嬉しかったのだろう。頬が紅潮している。あわわわわ、とされるがままになっている奈楠を見かね、リーバーは苦笑いして、ジェリーに手を離すように言った。


「あら!アタシとしたことが……!ごめんなさい!」
『いえ、大丈夫です…。ジェリーさん、注文したがってる人が…』


そう言って指でさし示されれば、ジェリーは慌ただしく厨房へと向かって行く。そんなジェリーを見送り、奈楠は改めて料理に手を伸ばす。幸せそうに食べている奈楠を見て、心が和んでいる自分がいることにリーバーは気づいた。奈楠同様、リーバーも頼んだサンドイッチに手を伸ばす。


「(……まぁ、たまにはこういうのも、いいかもな。)」


驚異的なスピードで料理を食べ終えた奈楠に驚きつつ、リーバーは席から立ち上がり、奈楠に視線を向けた。


「じゃあ、メシも食い終わったことだし、科学班フロアに行くか!」
『……はい!』


どこか嬉しそうに返事をする奈楠にまた、心が和んだ。






暖かい居場所

(暖かい食事に、暖かい人達。)

(あぁ、自分はやはりこの空間が好きなのだ、と)

(改めて思い知らされた)
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