奈楠とコムイはヘブラスカの間を後にし、再び指令室へと戻った。未だに奈楠を見る好奇の視線は向けられており、こころなしか奈楠の視線は俯いていた。


無理もない、とコムイは思った。この子はたった8歳かそこらなのだ。沢山の視線に慣れろという方が無理だろう。コムイは奈楠と目線を合わせるようにしゃがみ、優しく話しかけた。


「奈楠ちゃん……、キミの部屋に案内しようと思うんだけど」
『…お、お願いします…』


少し緊張したような彼女に、何だか妹に向ける愛情と同じようなものを感じたのだ。コムイは奈楠の頭を優しく撫で、さぁ行こう、と奈楠の背中を押した。








奈楠が宛てがわれたのは、当たり前だがエクソシスト専用の1人部屋。ベッドと机、そして洋服箪笥が用意されてあった。


「取り敢えず、今日からここがキミの部屋だ。自由に使っていいからね」
『…ありがとう、ございます』


奈楠はペコリと頭を下げて、コムイにお礼を言った。そんな奈楠を見てコムイはニッコリと微笑んで


「…明日から、色々と忙しくなるよ?団服の採寸に、イノセンスや奈楠ちゃん自体の検査。…それに、生活用品とかの買い物もしないとね!」
『……疲れそう、ですね』
「アハハ!まぁ、今日はゆっくりと休んだ方がいい。……おやすみ」
『…室長?も、あんまり無理しないでくださいね。…おやすみなさい』


そう言った奈楠はパタン、と部屋の扉を閉めた。コムイはそれを見ながらヒラヒラと手を振っていたが、パタンと扉が閉まれば一気にその表情は真剣なものになる。奈楠はと言えば、扉に体を預け、ズルズルと座り込んでいた。


「(…この反応は、本当に8歳児のモノか…?いやに、冷静だ)」
『…失敗、したなぁ…』


扉の前から、コムイの気配が消えていくのが分かる。それを確認した奈楠は、ようやくベッドへと向かい、ボフン!と頭から倒れ込んだ。きちんと掃除されていたのか、埃が舞うこともなくふわっと洗剤の香りが辺りに漂った。


『……明日から、エクソシスト…か』


自分の体に刻み込まれた聖痕と、首に掛かった台形の金色に光った板を見つめる。教団に入って来た時のあの視線の数々が頭から離れない。門番には映らないし、イノセンスは4つも持っているし、…しかもまだ子供だし。


好奇の視線を投げかけられるのも当たり前だ、と思った。


『…ちゃんとここで、やってけるのかな…』


泣きそうになるのを堪え、少し呟く。誰にも聞こえなかったその囁きは、静かに部屋へと溶けていった。そして奈楠は、そのまま流れる様に眠りについた。










好奇の視線

(当たり前だと、分かっていたのだ)

(自分がこの世界に、馴染めないことなど)
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